夏季の古典型つつが虫病症例と感染推定地周辺におけるツツガムシの生息状況調査−秋田県
(Vol. 31 p. 123-124: 2010年5月号)

秋田県では、例年春と晩秋につつが虫病患者の届出がある。患者の血清抗体価はKarp型あるいはGilliam型に高値を示す場合がほとんどであることから、フトゲツツガムシ媒介性のOrientia tsutsugamushi (Ot)による新型つつが虫病であることが推察される。夏季に発生する古典型つつが虫病は、アカツツガムシ媒介性Kato型Otによるもので、かつて秋田県雄物川流域の他に山形、新潟県の一部河川流域で多発する風土病とされていた。近年、その患者報告はなく、秋田県での患者発生は1993年が最後であった。ところが2008年8月、間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP法)による血清抗体検査において、古典型つつが虫病患者が確認された。検体は血清のみで、Otの検出はできなかった。患者は発病の9日前、雄物川河川敷で釣りをしていたことから、翌2009年、感染推定現場のツツガムシの生息調査と病原体の検索を行った。

症 例
患者:17歳、女性、大仙市在住。既往歴、家族歴特記事項無し。

現病歴:患者は2008年8月13日雄物川で釣りをした後、背部中央に鋭い痛みを感じた。8月22日、38.5℃の高熱と腋窩の痛みを主訴として皮膚科、内科、救急外来の3診療科4医療機関を受診したが、いずれもつつが虫病の指摘は受けず、風邪としてlevofloxacinや解熱剤の処方を受けていた。8月25日、症状が改善されないため不明熱として秋田厚生連平鹿総合病院に入院となった。入院時の体温は40.1℃、背部中央に2cm大の痂皮状刺し口が認められた。発疹と頚部、腋窩、鼠径リンパ節の腫脹は認められなかったが、白血球数と血小板の減少、好酸球消失、肝機能障害、尿蛋白陽性などに加え、ニューキノロン系薬剤の無効、刺し口所見からつつが虫病を疑い、minocyclineによる治療を開始した。治療開始後から解熱傾向となり、8月27日から体温が36℃台に安定した(図1)。

発熱から7日目(8月28日)と16日目(9月6日)の血清抗体価を当センターで測定した結果、Kato型に対する抗体が最も高値となり、Kato型Ot感染による古典型つつが虫病であることが判明した(図1)。

ツツガムシの生息調査と病原体の検索
上記症例の発生を受けて、2009年4月、7月、8月上旬、8月下旬の計4回、感染推定地点を中心に雄物川流域5カ所において、野外調査を実施した。捕獲野鼠寄生を主体にツツガムシ幼虫(以下ツツガムシ)の同定、野鼠の抗体検査(IP法)と脾臓からのOt分離(マウス接種法と培養細胞L929を用いたShell vial法)、PCRを行った。また、地表からのアカツツガムシ幼虫採取を黒布見取り法で行った。

その結果、捕獲したアカネズミ39頭とハタネズミ9頭から複数種のツツガムシ 497個体が採取され、そのうちフトゲツツガムシ182(37%)、アカツツガムシ115(23%)、タミヤツツガムシ110(22%)が上位を占めていた。フトゲツツガムシは全調査において野鼠への寄生が認められ、アカツツガムシは7月と8月に捕獲した野鼠、地表に認められた。

また、8月上旬の調査では感染地点より下流の河川敷草地ならびに河川敷運動公園においても黒布見取り法によりアカツツガムシを確認した。

野鼠の抗体価は、Gilliam型に対する抗体優位が5頭、Kato型優位が2頭認められた。また、感染推定地点とその上流部で4月と7月に捕獲したアカネズミからGilliam型のOtがマウス接種法により分離された。さらに、感染推定地において8月下旬に捕獲した2頭のハタネズミからKato型のOtが分離された。

近年、全国的に古典型つつが虫病患者の発生報告がなく、本県においては15年ぶりであったとはいえ、患者が適切な治療を受けるまでに合計4医療機関を受診していたという非常に憂慮すべき症例が発生した。さらに、調査によって、アカツツガムシの生息が確認され、野鼠からKato型Otを分離したことで、絶滅したかのように思われていたOt保有のアカツツガムシがまだ生き残っており、感染要因となったことが強く示唆された。

今回アカツツガムシの生息が確認された河川敷運動公園では、毎年8月、全国から観光客が集まるイベントが開催されている。今日までにそのイベントへの参加が感染要因と推定されたつつが虫病患者が秋田県内では19名届出られている。患者発生は1993年を最後に途絶えているが、本症例と同様、再び患者が発生する可能性がゼロとは限らない。また、県外からの観光客が本県で罹患し、帰郷後に発症した場合においては、治療開始の遅れによる重症化が危惧される。したがって、改めて夏季の古典型つつが虫病と感染予防の全国的な周知が必要であり、ツツガムシ生息状況やOt保有状況などの基礎データ集積によるさらなる実態把握が重要であろう。また、つつが虫病は地方によって疫学的特長、媒介ツツガムシの分布が多彩であることから、今後一層、国立感染症研究所と各地方衛生研究所、研究機関の密接な情報共有と連携が肝要である。

秋田県健康環境センター
佐藤寛子 柴田ちひろ 佐藤了悦 斎藤博之 安部真理子 齊藤志保子
秋田厚生連平鹿総合病院 國生泰範
埼玉県立川越総合高等学校 高橋 守
大原綜合病院附属大原研究所 藤田博己
愛知医科大学 角坂照貴
福井大学医学部 高田伸弘
国立感染症研究所 川端寛樹 高野 愛
秋田大学 須藤恒久

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