現在、山形県では県内全域で患者が発生しており、1995〜2009年の15年間で、146人患者発生があった(年間約10人)。そのうち125人(86%)が4〜6月の春ないし初夏に発生しており、9〜11月の秋の発生は17人(12%)にすぎない。感染したOrientia tsutsugamushi (Ot)の推定される血清型の内訳は、Karp型(103人、71%)、Gilliam 型(16人、11%)、Kawasaki型(4人、2.7%)、Shimokoshi型(2人、1.4%)、不明(21人、14%:病院で検査外注のため)であった。Karp型とGilliam型で患者の約8割を占めることから、当県における主な媒介種はフトゲツツガムシと考えられる。また、症例は少ないものの、東北地方には患者がいないとされていたKawasaki型や発生が稀なShimokoshi型の患者が確認されている。
関東以南で主流のKawasaki型の患者が4人確認されており 1)、この4人の患者の感染推定地域を図に示し(●)、発病日、性別、年齢、感染推定地域、感染時の行動を表1に示した。患者は4人とも女性で、発病日は10月中旬〜11月初旬のいずれも秋に発病しており、関東以南の本州、四国、九州地方にみられるKawasaki型患者発生時期と一致していた。4人中3人の感染推定地域は、比較的隣接した地域であった。患者の臨床症状は、つつが虫病の主要所見である刺し口、発疹、体温上昇が共通して認められた。4人の患者の血清抗体価を表2に示した。Kawasaki型抗原に対しIgG、IgMとも各症例で抗体価の上昇が認められた。
また、Shimokoshi型の患者が2人確認されており 4)、患者の感染推定地域を図(△)に示し、発病日、性別、年齢、感染時の行動を表1に示した。患者の発病日は5月、11月であり、臨床症状は、つつが虫病の主要所見が共通して認められた。2人の患者の血清抗体価を表2に示した。いずれもShimokoshi型抗原に対しIgG、IgMとも各症例で抗体価の上昇が認められた。Shimokoshi型の媒介ツツガムシの種は不明であるが、患者発生が5月、11月であったことからKarp型やGilliam型を媒介するフトゲツツガムシのように幼虫が秋と春に活動する種であることが推察される。
我々は、2007、2008年の春と秋に図に示した(1、2、3、4、5)患者感染推定地域5カ所のツツガムシ生息状況調査(捕獲した野ネズミからツツガムシ幼虫を採集し、形態から種の同定を行う)を実施した 2)。春の調査では野ネズミ65頭から7,692匹のツツガムシ幼虫を採集した。採集したツツガムシは3属9種に分類された。秋の調査では野ネズミ112頭から8,502匹のツツガムシ幼虫を採集した。採集したツツガムシは3属11種に分類された。当県における主な媒介種と考えられるフトゲツツガムシは、すべての調査地域で春と秋に採集された。しかし、その採集数は調査地域でかなりの偏りがみられた。
また、Kawasaki型患者感染推定地域(4、5)にて、秋にKawasaki型を媒介するタテツツガムシの生息を確認したが、他の調査地域(1、2、3)では、タテツツガムシを確認できなかった。さらに、5で捕獲した野ネズミ2頭の脾臓からKawasaki型のOt遺伝子が検出された。以上のことから、これらの地域は東北地方では発生が稀なKawasaki型によるつつが虫病患者の発生が予測される地域であることが示された 2)。一方、タテツツガムシは東北地方を北限として南西諸島にモザイク分布しているとされる 3)。本県において、Kawasaki型の患者が県北に限定されていることと、タテツツガムシを確認できたのが、県北のみであったことから、タテツツガムシが県内に広く分布しているのではなく、ある地域に限定して分布していると思われる。
東北地方におけるKawasaki型、Shimokoshi型によるつつが虫病の発生報告はこれまでごく少ないが、このような血清型も念頭におき病原診断を行う必要がある。
文 献
1)大谷勝実,他,感染症学雑誌 83: 496-499, 2009
2)金子紀子, 他,衛生動物 61: 79-84, 2010
3)高田伸弘,他,衛生動物 60: 169, 2009
4)大谷勝実,他,衛生動物 60: 317-321, 2009
山形県衛生研究所 金子紀子 瀬戸順次 安孫子千恵子
山形県村山保健所検査課 青木敏也
山形大学大学院医学系研究科公衆衛生学講座 大谷勝実