神奈川県におけるつつが虫病患者発生状況、2006〜2009年
(Vol. 31 p. 127-128: 2010年5月号)

神奈川県内でのつつが虫病患者の発生は1988年までは毎年十数名であったが、1989年に81名と急増し、1990年には112名の患者発生がみられた。その後減少傾向を示し、1996、1997年には9名にまで減少した。しかし、1998年から増加傾向に転じ、2000年には42名の患者発生となった。その後再び減少傾向を示し、2001年以降は毎年数名〜十数名の発生数で推移している。

2006〜2009年の4年間につつが虫病を疑われた患者118名(2006年24名、2007年35名、2008年22名、2009年37名)について、immunofluorescence assay(IF)による血清抗体検出、およびPCRによるOrientia tsutsugamushi (Ot)DNA検出により確定診断を行った。その結果、70名(2006年15名、2007年25名、2008年12名、2009年18名)がつつが虫病と診断され、さらに2008年には日本紅斑熱患者が1名確認された。

つつが虫病患者のうち、PCRによりOt DNAの検出が可能であった検体については型別PCRによる感染株の決定をし、Ot DNAが検出されなかった検体ではIF抗体価から感染株を推定して、県内および隣接している静岡県小山町で発生しているつつが虫病の感染株について検討を行った。この結果、県内および静岡県小山町での感染は、Kawasaki、KurokiおよびKarpの3株で、それぞれ51名(73%)、14名(20%)および5名(7.1%)の割合であり、その大部分がKawasaki株による感染であることが判明した。4年間のうち2008年のみKuroki株の減少が見られたが、その他の年ではほぼ同じ傾向であった(表1)。2007年、2008年および2009年の患者よりL929細胞を用いて8株のOt分離株が得られた。これら分離株を型別PCRおよびモノクローナル抗体を用いて同定した結果、すべてKawasaki株であった。

県内では毎年足柄上地区で多くのつつが虫病が発生しており、2006年からの4年間も感染推定場所はそのほとんどが山北町、南足柄市の2つの地域であった。また、少数であるが小田原市や秦野市など周辺地域での患者発生も見られた(表2)。患者の発生時期も例年同様10〜12月で、特に11月に集中していることが多かった。

神奈川県でのつつが虫病患者発生数をみると、2003年頃からは毎年10〜20名前後の患者発生が続いている。今後もこの傾向で推移するのか注目していきたい。また、神奈川県内は複数の政令市、中核市等の行政区分により県内すべてのつつが虫病疑いの症例について本所において検査が行われているわけではない。地域における患者発生の正確な情報把握においては、患者情報の共有とともに検査情報の共有と連携が必要となる。

つつが虫病は適切な薬剤投与により完治する病気であるため、早期に確定診断することが重要である。今後もIFとPCRを併用し、つつが虫病の迅速診断をより確実にする必要がある。

神奈川県においては、海外からの帰国後にリケッチア症を疑う症状を呈した症例について毎年数例ではあるが検査依頼がある。渡航先はネパール、インド、韓国、アメリカ、アフリカなど広範囲であり、検査対象となる。そのため考慮すべきリケッチアも多岐にわたっている。2001〜2009年に依頼のあった輸入リケッチア症疑いの検体13例のうち、2003年と2004年の韓国での感染例2例がつつが虫病と診断され、2008年のアフリカボツワナでの感染例1例が紅斑熱群リケッチア症と診断された(表3)。交通の発達、仕事の多様化、全世界にわたる海外旅行など、今後もこのような症例が増えると考えられ、このような社会情勢の中では、県内や日本国内で流行している病原体にのみ対応した検査だけではなく、海外で流行している病原体にも対応する必要があると考えられる。これらのことから、リケッチア症などに対する日本各地域(ブロック)ごとのレファレンスセンターの構築や、感染症研究所や地方衛生研究所のさらなる連携体制が必要となってくると考えられる。

神奈川県衛生研究所 片山 丘 古屋由美子
神奈川県保健福祉局 小笠原弘和 秋好偉聡

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