三重県における日本紅斑熱発生状況と対応
(Vol. 31 p. 129-130: 2010年5月号)

はじめに
日本紅斑熱はRickettsia japonica を原因とするダニ媒介性疾患であり、4類感染症に指定されているヒトの疾患である。マダニ類の刺咬で体内にリケッチアが侵入することにより感染発病し、紅斑を伴う発熱等を主徴とする。1984年に馬原らにより新しいリケッチア感染症として報告され、近年発生地域が拡大している。三重県においても県南部を中心に患者報告数が増加傾向にあり、公衆衛生上問題となってきている。当所では、主に感染症発生動向調査事業に基づき提出された検体の検査を実施するとともに、検査方法についても必要に応じ検討を加えている。

材料および方法
検査材料は日本紅斑熱を疑い当所に搬入された患者の全血、血清、刺し口および紅斑部皮膚のうち、採材し得たものを検査対象とした。検査を実施したのは2007(平成19)年25例、2008(平成20)年47例、2009(平成21)年52例である。検査方法は2000(平成12)年度紅斑熱群リケッチア症診断マニュアルに準拠した。抗原検査は全血、皮膚を対象としたPCR法、抗体検査は血清を対象とした間接蛍光抗体法により行った。間接蛍光抗体法の抗原にはホルマリン不活化リケッチア感染細胞を用いた。

成績および考察
検査対象とした検体のうち平成19年は25例中20例、平成20年は47例中35例、平成21年は52例中41例が感染症法による診断基準を満たし、日本紅斑熱と診断された。日本紅斑熱患者の居住地は三重県南部に集中し、この地域に日本紅斑熱リケッチア保有マダニが多く生息している可能性が考えられた(図1)。また、検査法について検討したところ、PCR法において使用する酵素の種類により結果が異なる傾向が見られた。ウマ血液にホルマリン不活化リケッチア感染細胞を添加した疑似検体を調製し検討したところ、HotStart型のTaq Polymeraseを用いた場合の検出感度が良好であったため、検査においては同酵素を用いることが適当と考えられた。また、核酸抽出法の違いにより若干の差が見られ、各キットの処理方法によりPCR反応阻害物質の残留や核酸回収量の差が現れてきているものと考えられた(表1)。検体種類別の検出感度について診断確定患者の材料を検討したところ、血液を対象としたPCR法での陽性率は52.7%であり、血液のみを材料とした場合、4割程度が偽陰性と診断される可能性が示唆された。これに対し、刺し口皮膚を対象としたPCR法および回復期の抗体検査では陽性率が高い傾向にあり、検査材料として有用であると考えられた(表2)。

まとめ
三重県において増加傾向にある日本紅斑熱を調査した結果、平成19〜21年の3年間で124例中96例(77%)が日本紅斑熱と診断された。患者の居住地は三重県南部に集中しており、リケッチア保有マダニの存在が示唆された。検査法を検討したところ、PCR法を用いる場合、使用する酵素の種類により結果が異なる場合があり、日本紅斑熱のPCR法に関してはHotStart型Taq Polymeraseを用いることが適当と考えられた。検査材料と検査法としては、皮膚刺し口を用いたPCR法、回復期血清の蛍光抗体法の感度が良好な傾向にあり、有用であると考えられた。

三重県保健環境研究所 赤地重宏 田沼正路 大熊和行
三重県伊勢保健福祉事務所 板羽聖治 田畑好基
山田赤十字病院 坂部茂俊
伊勢市立総合病院 近藤 誠
三重大学医学部 安藤勝彦

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