マールブルグ出血熱の輸入例、2008年−米国・コロラド州
(Vol. 31 p. 147: 2010年5月号)

マールブルグ出血熱(MHF)はフィロウイルス科に属するRNAウイルスであるマールブルグウイルス(MARV)によって引き起こされる稀なウイルス性出血熱である。自然宿主はオオコウモリ類(fruit bats)であることが分かってきている。

2007年12月にウガンダを2週間旅行した44歳女性が、2008年1月1日に帰国し、1月4日に悪寒、頭痛、嘔気、嘔吐、下痢を発症した。1月6日に白血球の異常低値(900/μl)を指摘された。1月8日に持続性の下痢、腹痛、疲労の増悪、全身倦怠および混迷を呈し、原因不明の急性肝炎、嘔気および嘔吐の診断で市中病院に入院した。1月9日にウガンダから帰国後の原因不明の発熱性疾患として、コロラド州公衆衛生当局に報告された。当初はレプトスピラ症が疑われて治療されたが、汎血球減少、凝固異常、筋炎、膵炎、脳症をきたした。肉眼的な出血傾向は月経を除いては認められなかった。入院中にウイルス性肝炎、マラリア、アルボウイルス感染症、住血吸虫症、リケッチア症、ウイルス性出血熱(マールブルグ出血熱およびエボラ出血熱を含む)について行われた検査はすべて陰性であった。1月19日に退院し、慢性肝炎や慢性腎機能障害は残らなかったものの、持続的な腹痛、倦怠感、および精神的な霧(mental fog)状態が長く続いた。

2008年7月(発症6カ月後)、ウガンダで最近同じ洞窟(Python cave)に入ったオランダ人の旅行者がMHFを発症し、死亡したことを知った患者自身が再検査を求めた。このときの血清はELISA法でMARV IgG陽性であり、第10病日の血清をnested RT-PCR法で再検査したところ、MARV RNAが検出された。この患者は、2007年12月25日にウガンダの国立公園内の洞窟に15〜20分程度入った際に、コウモリの分泌物や排泄物に曝露して感染したものと考えられた。疫学調査では周囲に二次感染者は確認されず、同行した8名中検査を行った6名はいずれも未感染であった。当該洞窟は2008年7月にオランダ人の症例が出た際にすでに閉鎖されていた。

この報告はフィロウイルス(MARV、エボラウイルス)によるウイルス性出血熱の米国への初輸入例である。MARVの自然宿主と考えられるエジプトオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus )はアフリカの大部分に生息している。ヒトへの感染経路は確定していないが、コウモリの分泌物や排泄物への直接・間接の接触によるものと考えられている。発症者の接触者(医療従事者など)で発症した報告があり、MHFが疑われた患者に対しては人−人感染を防ぐために飛沫感染予防策と接触感染予防策の適用が推奨されている。

サハラ以南のアフリカに行く旅行者が洞窟に入る際にはMHF 感染リスクがあることに注意すべきである。また、流行地域からの帰国後の発熱性疾患に対してウイルス性出血熱を鑑別に入れる必要がある。

(CDC, MMWR, 58, No.49, 1377-1381, 2009)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る