北九州市で、2010年2月に血液疾患患者から分離されたオセルタミビル耐性新型インフルエンザウイルス(A/H1N1pdm)についてその概要を報告する。
血液疾患患者は、2009年12月下旬に入院後、2010年1月初旬に発熱があり、オセルタミビルを内服したが、翌日のインフルエンザ簡易診断キットでA(+)であり、症状の変化は見られなかった。10日後も発熱が持続していたため、咽頭ぬぐい液を採取し、リアルタイムPCRを行った結果、A/H1N1pdmを検出した。この咽頭ぬぐい液をMDCKに接種し、3代継代したが、ウイルス分離には至らなかった。2月初旬にサイトメガロウイルス肺炎の悪化に伴い呼吸不全となり、簡易診断キットA(−)であったが、気管吸引液からリアルタイムPCRによりA/H1N1pdmを検出した。気管吸引液からウイルスが分離され、国立感染症研究所(感染研)から配付された2009/10シーズンインフルエンザウイルス同定キットを用いたHI試験により、抗A/California/7/2009pdm(ホモ価2,560)に対してHI価1,280、他の抗血清に対して<10であり、A/H1N1pdmと同定された。
さらに分離したウイルスのNA遺伝子の部分塩基配列を解析し、オセルタミビル耐性マーカーH275Yを検出した。分離株を感染研に送付し、オセルタミビルおよびザナミビルに対する薬剤感受性試験を行った結果、ザナミビルに対しては感受性を保持していたが、オセルタミビルに対する感受性は著しく低下していることが確認された。
そこで、1月初旬に採取した咽頭ぬぐい液(オセルタミビル内服10日後)についても、NA遺伝子の部分塩基配列を解析したところ、同様にオセルタミビル耐性マーカーH275Yを検出した。この咽頭ぬぐい液から増幅されたNA遺伝子と2月初旬に分離されたウイルスのNA遺伝子には、ともにN248Dの置換があり、別の箇所にも両者共通の塩基配列の置換(903番目AからG、915番目TからG)が確認された。これらのことから、血液疾患により免疫機能が低下していた患者体内で発生した可能性がある耐性株が、1カ月以上も持続感染していたと考えられた。市内では、3月末現在まで、この他に耐性株は分離されていない。
北九州市環境科学研究所 村瀬浩太郎 河辺直美 梨田 実