ステーキチェーンBでのSTEC O157による感染症発生事例―埼玉県
(Vol. 31 p. 157-158: 2010年6月号)

はじめに
近年、食品流通の広域化・複雑化に加え外食産業の大規模チェーン店化が進んでいる。そのため、食品を原因とする感染症(食中毒)において、患者発生が複数の自治体で散発的・広域的に見られることが多くなっている。特に感染性胃腸炎として重要な腸管出血性大腸菌(以下STEC)感染症は、発症菌量が少なく、そのほとんどが散発的な発生のため、原因施設や原因食品を特定することが容易でなく、食中毒としての立証が難しいこともある。このような場合、患者からの聞き取り情報に加えて、分離菌株の性状やパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析等の菌株情報を総合的な疫学情報として用いることが有用とされている。今回、我々は分離菌株のPFGE解析において複数のパターンがみられた事例を経験したので、その概要を報告する。

事例の概要
関東近県でチェーン展開するステーキ店Bにおいて、STEC O157:H7(VT1&2)による腸管出血性大腸菌感染症の患者発生があり、埼玉県内では患者20名と従事者3名を含む4名の保菌者の届出があった。喫食日の判明した患者20名は2009年8月17日〜9月14日の間に発症しており、そのうち11名が9月1日〜4日の4日間に発症していた。また、利用店舗は11店舗で、6店舗では複数患者の報告があったが、残り5店舗では1名ずつであった。利用日は8月13日〜30日で、30日が10名と最も多かった(図1)。保健所職員による聞き取り調査により喫食状況等の詳細な疫学情報が得られた患者16名は、ハンギングテンダーを原材料とする角切りステーキ等を喫食していた。これらの患者の症状は軟便のみであった1名を除き、下痢・腹痛があり、10名は血便を呈していた。

患者の発生を受けて、各保健所では店舗への立ち入り調査を実施し、肉(参考品)、調理場ふきとり検体および従事者便の検査を行った。肉やふきとり検体からの当該菌分離はなかったが、従事者検便では2店舗3名が陽性であった。また、当該チェーン店の本社工場において加工日ごとに保存されていた原材料を外部検査機関において自主検査したところ、8月9日加工分の肉からSTEC O157(VT1)が分離されたとの報告が保健所にあった。

届出があった患者および保菌者24名中23名の分離株を収集し、その性状を確認した。血清型およびVero毒素型は、STEC O157:H7(VT1&2)とすべて一致していた。薬剤感受性は供試した12薬剤(CP、SM、TC、KM、ABPC、NA、CTX、CPFX、FOM、GM、NFLX、SXT)では、19株が感受性であり、3株がSM、TC耐性、1株がCP、SM、TC耐性であった。PFGE法では制限酵素Xba Iによる切断パターンにおいて供試23株が10パターンに分けられた(図2)。5パターンでは複数株の集積が見られたが、残り5パターンは1株ずつであった。

まとめ
本事例の患者はいずれも、ハンギングテンダーを原材料とする角切りステーキ等を喫食していた。また、喫食日や発症日が一定の期間内に限られていることから、本事例がこのチェーン店内の何らかの要素により発生したことが考えられた。しかし、分離株のPFGEパターンが複数認められたことや、原料肉の原産国や仕入れ日と患者の発生状況が必ずしも一致しないことなどから、本事例は複数の要素が関わっていることが示唆された。また、軟化剤等の漬け込みにより病原微生物が内部に拡大するおそれのある処理を行った食肉や挽肉調理品では、中心部を75℃で1分間またはこれと同等の加熱効果を有する方法により、加熱調理されるよう指導を徹底することが重要と考えられた。

埼玉県衛生研究所
倉園貴至 砂押克彦 大島まり子 小野一晃 大塚佳代子 青木敦子 野口貴美子 中川俊夫

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