保育園で発生した腸管出血性大腸菌O121による集団発生事例―大分県
(Vol. 31 p. 162-164: 2010年6月号)

2009年1月26日、水様性下痢と血便を呈してB市内の医療機関を受診した患者(1歳9カ月)の便から、腸管出血性大腸菌O121:H19 VT2(以下EHEC O121)が検出された旨、同月30日にT保健所に届出があった。患児の居住地を管轄する保健所の調査で、患児はK市内の保育園に通園していることが判明したため、直ちに保育園や家族に対し健康調査、衛生指導を開始した。同月31日には保育園児1名、職員1名から同菌が検出され、さらに2月2日には保育園児や家族等14名から同菌が検出されて集団発生が明らかとなったため、同日に現地対策本部、翌3日には本庁に感染症対策本部が設置された。全保育園児や施設関係者を対象に検便の実施が決定され、糞便 318件、ふきとり48件の検査を実施した。2月6日以後、新たな感染者は認められなかったが、陽性者の陰性確認や陰性確認後の再排菌等により終息の最終確認は3月16日となった。

医療機関から提供を受けた初発患者からの分離菌株を精査した結果、DHL寒天培地で非分解(遅分解)、クロモアガーO157培地では青紫色の特徴あるコロニーを形成した。菌株は、LIM培地でリシン(+)・インドール(+)・運動(±)、XMブロスでGAL(−)・MUG(+)・インドール(+)の生化学的性状を示し、病原大腸菌免疫血清「生研」(デンカ生研)でO121に凝集を認め、PCR法でVT遺伝子(VT2)が確認された。初発患者由来株から得られた性状の特徴を利用して、糞便検査の直接分離培養にはDHL寒天培地、クロモアガーO157培地の2種類を使用し、TSB培地による増菌培養も併用した。遺伝子スクリーニング検査として、TSB増菌液からPCR法によるVT遺伝子の検索を行った。PCR法でVT遺伝子陽性となった検体について、分離平板上の疑わしいコロニーをLIM培地、XMブロス、普通寒天平板に接種し、初発患者由来株と同一性状を示す菌株を検索した。EHEC O121が疑われる菌株について、PCR法でVT遺伝子およびVT型別の確認検査を実施した。

パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析は、2004年度に示された国立感染症研究所新プロトコールを基本に、供試菌株を制限酵素Xba Iで37℃16時間消化後、CHEF DR III(Bio-Rad)を使用し、6V/cm、2.2sec-54.2sec、20時間、buffer温度12℃の条件で電気泳動を行った。サイズマーカーはSalmonella Braenderup H9812 PulseNet Standard Strainを供試菌株と同様に処理をして用いた。得られたPFGE泳動像の画像解析はFinger Printing II(Bio-Rad)を用いて行った。

318名の検便を実施した結果、保育園児26名、職員1名、家族4名の合計31名からEHEC O121(VT2)が検出された(表1)。当該菌はオムツを着用している1歳児以下から高率に分離され、菌陽性者の71%を占めていた。保育園等のふきとり検査の結果、0歳児のオムツ処理容器から当該菌が分離され、0歳児保育室の畳からは当該菌は分離されなかったものの、VT2遺伝子が検出された(図1)。分離菌株について実施したPFGEは、いずれもよく似たパターンを示した(図2)。初発患者の発生要因については不明であったが、上記の調査結果から、オムツ交換時やトレーニング時などの汚物の取り扱い不注意により感染が拡大したものと推察された。近年、全国的にEHECによる集団給食等の大規模感染事例は激減したが、保育園や老人施設等においては依然として集団感染事例が散見される。要因として、飲食物を介した感染以外による人から人への感染が大きく関与していると考えられる。オムツなどの汚物の衛生学的処理の徹底など、二次感染の予防策の啓発が重要と考えられた。

2007年に本県で発生したEHEC O111の集団感染事例(大分県衛生環境研究センター年報 Vol.35: 30-34)の時には、平板Sweep法でVT遺伝子の検索を行ったが、DNAテンプレート作製に手間と時間がかかること、非特異バンドが多数見られて判定に苦慮したことから、今回のDNAテンプレート作製には、TSB増菌培養液をキレックス・加熱抽出する方法を採用した。このことにより、抽出を省力化し、非特異バンドを抑制して、VT遺伝子を効率よく検出することができた。

大分県衛生環境研究センター微生物担当
緒方喜久代 若松正人 成松浩志 小河正雄
東部保健所 食品衛生・薬事班、検査担当

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