属名と種名
1950年代までは、Moraxella lwoffii と呼ばれていた菌種は、1960年頃より、Acinetobacter lwoffii と属名が変更された。また、Acinetobacter calcoaceticus が1970年代より新しい種として認知されるようになり、現在、臨床現場で問題となっているA. baumannii は、1980年代より人に病原性を示す種として新たに認知されるようになった。現在、アシネトバクター属には、少なくとも17の種名と15のgenomic speciesが確認されている。
多剤耐性株の耐性機構
広域セファロスポリン耐性には染色体上のAmpC型セファロスポリナーゼ(ADC-1など)の産生が関与するが、カルバペネム耐性には、A. baumannii が生来持っているOXA型カルバペネマーゼOXA-51-likeの遺伝子の上流にプロモーター活性を有する挿入配列(ISAba1 など)が挿入されたり、外来性にOXA-23-likeやOXA-58-likeなどのカルバペネマーゼの遺伝子の獲得が関与している(表1)。
フルオロキノロン耐性には、緑膿菌などと同様に、染色体上に存在するDNA ジャイレースやトポイソメラーゼIVなどのDNA複製酵素のキノロン耐性決定領域(QRDR)のアミノ酸残基の置換を引き起こす遺伝子変異や抗菌薬排出機構(AdeABC)などが関与する。
アミノ配糖体耐性についても、緑膿菌などと同様にアミノ配糖体のリン酸化酵素(APH)やアセチル化酵素(AAC)、アデニリル化酵素(AAD)などの産生が関与する。特に、アミノ配糖体の標的分子である16S rRNAをメチル化する酵素(ArmA)を産生し、広範囲のアミノ配糖体に超高度耐性を獲得した株が中国や米国などで増加しつつあり、最近、千葉県でもArmA産生株が確認されていることから、今後の広がりが警戒されている。
国立感染症研究所細菌第二部 荒川宜親