WHOは2003年以降、A/H5N1ウイルスのヒト感染例について各国からの報告を収集するとともに、患者の集積(クラスター)を調査している。クラスター事例は、ヒト−ヒトにおける潜在的な感染性、感染に対する感受性や重症化における遺伝的要因、家庭内のウイルス伝播状況を評価する上で重要である。今回、クラスターの世界的な疫学的状況を把握する目的でデータの分析を行った。データは、各国が実施した調査結果を自発的にWHOに報告したものである。一部不完全なデータは解析から除外した。症例定義は、WHOがガイドラインにすでに発表している定義を用いた。
2003〜2009年に感染確定例 443例、疑い例37例がWHOに報告された。そのうちクラスターは11カ国から、54事例、138症例(確定例104例、疑い例34例)であった。クラスター関連症例は、2003〜2006年は全症例の39%(115/294)を占めたが、2007〜2009年には12%(23/186)に減少した。クラスター件数も2005〜2006年をピークにその後減少した。クラスター当たりの症例数は、平均2.5(中央値2、範囲2〜8)で、2006年までは増加し、その後減少した。クラスター関連症例の年齢は平均19歳(中央値15歳、範囲4カ月〜81歳)で、散発例の年齢と有意差はなかった。クラスター発生の季節性は認められなかった。
クラスター関連症例の致死率(CFR)は、国別では43%(エジプト)〜100%(カンボジアおよびナイジェリア)で、全体では64%であり、散発例と同様であった。クラスター関連症例の年齢群別CFRは、10歳未満では42%、10〜39歳では74%、40歳以上では63%であった。散発例でも同様であった。クラスター関連症例の発症から入院までの期間ごとのCFRは、その期間にかかわらず50%以上と高かった。クラスター関連症例の性別のCFRは、女性が男性より高かった。性差の原因は不明であるが、国別では男性が高い場合もあった。
家族情報が得られた41クラスターのうち、30クラスター(73%)ではすべての症例が1つの家に、7クラスター(17%)では2つの家に、4クラスター(10%)では3〜6の家に住んでいた。54クラスターのうち、50クラスターでは全症例が血縁者であり、他のクラスターも血縁者が多く含まれていた。曝露情報が得られた二次感染者55例のうち、54例に有症状者との接触歴があった。鳥との接触歴は、初発例、二次感染例のほとんどすべてが有していた。
A/H5N1ヒト感染例の疫学的検討ではクラスターの把握が重要である。クラスター関連の症例は減ってきているが、今後も警戒が必要である。ひきつづきWHOに報告するよう各国の担当者に求めたい。
(WHO, WER, 85, No.3, 13-20, 2010)