2009年1月にジフテリア様症状を呈する患者からジフテリア毒素産生性Corynebacterium ulcerans が分離された。ヒトからの検出は本邦第6例目である(表1)。患者が発症する以前に接触した野良猫は、鼻水、発咳が観察されており、患者と野良猫から分離された菌は同じ遺伝子型であることが確認された(IASR 30:188-189, 2009)。2009年7月に健康局結核感染症課長より各都道府県衛生主管部長に「コリネバクテリウム・ウルセランスによるジフテリア様症状を呈する感染症患者に関する情報について」として、患者の知見と情報提供を求める通知があった。また、2009年8月には本通知による感染例が新聞に報道された結果、新聞情報を見た飼い主が開業獣医師の診察・検査により、一般家庭で飼育する猫から当該菌が分離された。
国内数箇所の地方衛生研究所(地研)では、所轄する地区の動物愛護センター等の協力のもと、捕獲または放棄犬および猫の菌分布調査を実施している。そのうち、当該菌が分離された地研の結果を以下に報告する。
各地研で用いた培地は、手技を統一するために現状で一番良いと考える組成で特注し、培地の性能を共通化した(株:日研生物医学研究所)。分離用には亜テルル酸カリウム加羊血液寒天培地(特製血寒)を使用し、35℃2日間培養して黒色を呈するコロニーはDSS培地に釣菌した。DSS培地の高層部が青色(ブドウ糖分解陽性)および斜面部が透明(ショ糖分解陰性)の反応を認めた菌株について、Apiコリネ(日本ビオメリュー社)を用いて同定した。特製血寒上に出現した黒色集落のジフテリア毒素遺伝子検出のPCR法については、10集落分をまとめてDNAを抽出するgroup PCR、または密集した集落部分のsweep PCRを実施し、陽性検体について菌を再分離後に、再度PCRを実施した。また、Khamisらが報告したコリネバクテリウム属の同定を目的としたrpoB 遺伝子の塩基配列解析についても実施した。分離株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析はCHEF-DR II(BIO-RAD)を使用して Sfi Iで処理後、1.5%ゲルで14℃、6V、パルスタイム5-20 sec、18時間、1-5 sec、14時間泳動後、エチジウムブロマイドで染色して紫外線下で観察した。さらに、PFGEの結果は画像解析ソフト(UPGMA)を使用して、デンドログラムを作成した。
なお、感染症法におけるジフテリアはC. diphtheriae の感染によるものと限定されており、今後の調査によりC. ulcerans 感染の経路、病原性および伝播性を解明することで、人獣共通感染症の4類感染症への追加措置を検討するための科学的根拠を提供することができるものと考える。
本研究の一部は、平成21年度厚生労働科学研究費補助金、健康安全・危機管理対策総合研究事業「動物由来感染症の生態学的アプローチによるリスク評価等に関する研究」の支援を受けて行われた。
国立感染症研究所細菌第二部第三室 高橋元秀