大分県におけるイヌ・ネコのC. ulcerans 保菌状況
(Vol. 31 p. 204-205: 2010年7月号)

結 果
2009年7〜8月にイヌ63匹、ネコ29匹の計92匹の咽頭ふきとり検体を調査した結果、イヌ5検体からC. ulcerans (ジフテリア毒素遺伝子保有)を分離した。この5検体以外にイヌ3検体、ネコ1検体についてジフテリア毒素遺伝子を検出したが、菌は分離できなかった(表1〔大分〕)。分離菌5株は、DSS培地で高層部が青色(ブドウ糖分解陽性)および斜面部が透明(ショ糖分解陰性)を呈し、Apiコリネの生化学性状試験による同定検査では5株ともにコード「0111326」C. ulcerans (ID 99.7%)であった。また、国立感染症研究所にてレフレル培地凝固水中のジフテリア毒素活性試験を行い、すべて毒素産生性C. ulcerans であることを確認した。PFGEによる菌株の解析結果は、今回のイヌ由来株5株と2005年の大分県内のウルセランス感染患者由来株は同一パターンであったが、千葉県内の患者由来株や大阪府内のイヌ由来株とは異なるパターンを示した(図1〔大分〕)。得られた泳動像はFingerprinting IIを使用してUPGMA法によるクラスター解析を行ったところ、今回のイヌ由来株と大分県の患者由来株は100%一致した。

考 察
イヌ63検体中、8検体からジフテリア毒素遺伝子を検出し、検出率12.7%と高率であった。このうち、菌を分離できたのは5検体であった。これは検査法として、スクリーニングにジフテリア毒素遺伝子を標的としたリアルタイムPCR法を用いたこと、そのテンプレート調製法として、培地上の濃厚発育部をかき取る方法(sweep法)さらに、疑わしいコロニーをいくつかのグループにまとめてしぼり込む方法(colony mix法)を組み合わせたことで検出率が上がったものと考える。PFGEでは、このイヌ由来株と大分の患者由来株はすべて同一パターンを示し、他の地域の菌株と違いが認められたことは、C. ulcerans のタイプに地域性があると考えられる。捕獲地域が判明した3頭のイヌは、捕獲した日時および場所はそれぞれ違っているが、同じ保健所管内であった。また、そのうちの1頭は皮膚病を呈していた。これらのことから、捕獲後に運搬車両や抑留施設内において、保菌イヌから他のイヌに伝播した可能性を考慮し、捕獲車内や抑留施設の床、壁、捕獲檻、犬用固定棒など26カ所をふきとり、施設環境の調査を実施したが、C. ulcerans は検出されなかった。また、イヌへの感染媒介としてダニの関与を疑い、野外の自由生活ダニを100匹採取し、保菌調査を実施したが、ジフテリア毒素遺伝子は検出されなかった。今後、C. ulcerans の環境中の分布を明らかにするとともに、咽頭炎等の症状を呈する患者からの菌分離を試み、感染者の実態を把握することで、ヒトへのリスク評価を行い、感染症法上での本菌の位置付けを明確にする必要がある。

大分県衛生環境研究センター微生物担当
若松正人 人見 徹 成松浩志 緒方喜久代 小河正雄
国立感染症研究所細菌第二部 小宮貴子

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