愛媛県におけるイヌ・ネコのC. ulcerans 保菌状況
(Vol. 31 p. 205-206: 2010年7月号)

結果および考察
2009年10月〜12月に調査したイヌ50頭中1頭、ネコ51頭中4頭の咽頭スワブから、ジフテリア毒素遺伝子陽性(Tox+)株が5株分離された。生化学的性状を確認したところ、Apiコリネでは5株すべてGlycogenが陰性となり、解析コードからCorynebacterium pseudotuberculosis (%ID 92.8〜99.6)と判定された。Hiss血清水による糖分解試験では、Glucose、Maltose、Trehaloseが陽性、Sucroseが陰性であったものの、Glycogenは陽性が1株、陰性が4株と反応性に違いがみられた(表1〔愛媛〕)。一方、rpoB 領域406bpの塩基配列はC. ulcerans (AY492271)と100%一致し、C. pseudotuberculosis (AY492239)と31塩基の相違があったことから、5株すべてC. ulcerans と同定された。これら5株は培養細胞法で毒素産生性が確認され、最終的にイヌ50頭中1頭(2.0%)、ネコ51頭中4頭(7.8%)においてC. ulcerans (Tox+)の保有が確認された。分離株のPFGE解析の結果、菌株No.1、2、4、5の4株は岡山のヒト由来株やネコ由来株と一致し、No.3は千葉のヒト由来株と一致した。今回の調査により、野外で生活しているイヌ・ネコが、一定の割合でC. ulcerans Tox+を保有すること、分離株の性状に多様性がみられることが明らかとなったが、これらの動物が収容されるまでの生活環境や、収容地域等は不明である。今後、さらに調査を継続し、本菌の保有に影響する要因等を明らかにする予定である。

なお、今回用いた「Apiコリネ」はコリネバクテリウム属菌同定の汎用キットであるが、C. ulcerans C. pseudotuberculosis は生化学的性状が類似しているため、判定が困難であることが知られている。通常、C. ulcerans はGlycogen、Trehaloseが陽性であり、これらの糖分解試験を併用すれば、両菌の分類はそれほど難しくないとされる。しかし、今回、5株中4株がGlycogen陰性であったことから、両菌種の同定にはTrehaloseの分解性を確認するとともに、rpoB 領域の塩基配列を解析する必要があると考えられた。

本調査は、愛媛県動物由来感染症予防体制整備事業の病原体保有状況調査の一環で実施された。

愛媛県立衛生環境研究所
烏谷竜哉 浅野由紀子 田中 博 武智拓郎 土井光徳
愛媛県動物愛護センター
佐々木俊哉 木村琴葉 岩崎 靖 勇 孝徳
愛媛県保健福祉部薬務衛生課食肉検査指導係
望月昌三 豊嶋千俊
国立感染症研究所細菌第二部 小宮貴子

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