観光地のホテルを原因とした広域に及ぶレジオネラ集団発生事例―岐阜県
(Vol. 31 p. 207-209: 2010年7月号)

2009(平成21)年10月、入浴施設を原因としたレジオネラ集団感染事例が発生し、当該施設への行政指導等を行ったので報告する。

概 要
高山市内の大手ホテル入浴施設を利用した宿泊客8名が、10月初旬〜下旬にかけて発熱、肺炎等を発症した。患者1名の喀痰から分離されたLegionella pneumophila 株と浴槽水から分離された菌株とでパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)を実施したところ、同一の泳動パターンを示したため、入浴施設が原因であると判断した。

飛騨保健所は、当該施設への立入指導、浴槽水等のレジオネラ属菌検査、文書指導、関係団体への入浴施設の衛生管理に関する通知を行った。

1.届出患者の概要
届出のあった患者8名は、9月30日〜10月21日にかけて当該入浴施設を利用した50〜80代までの男性5名、女性3名であった(表1)。診断方法としては、患者8名のうち7名(No.1〜7 )が尿中レジオネラ抗原の検出(イムノクロマト法)であり、1名(No.8)がPCR法による喀痰からの病原体遺伝子の検出であった。

患者はいずれも入院治療を受け軽快している。なお、1名の重体患者がいたが、発症後45日目に退院し、外来治療に変わっている。

2.施設の概要
ホテルの入浴施設は大浴場[内湯男(1)女(2)、露天男(3)女(4)]、地下浴場[内湯男(6)女(7)、露天(8)]の2カ所があり、エアロゾル発生源として男女ともに大浴場にはジャグジー男女(5)、地下浴場露天風呂には滝があった。なお宿泊者以外の一般客も利用している。原水は温泉水を使用し、源泉からくみ上げた後に地下貯湯槽に送り、各浴槽に補給していた。各浴槽水は8系統[上記(1)〜(8)に対応]の循環装置で砂によるろ過を行い、塩素自動注入により消毒を行っていた。

3.主な経過
10月19日最初の患者発生の情報を受けた後の対応経過は表2のとおりである。

4.検査成績
施設の浴槽水等42検体についてレジオネラ属菌検査を実施したところ、14検体からレジオネラ属菌が検出され、菌数は最大18,000cfu/100ml[10月20日採水(2)]であった。分離されたレジオネラ属菌は、L. pneumphila 血清群(SG)1、2、3、4、5、6、8、9、およびL. oakridgensis の計9種類と多様であった。

患者1名(No.1)の喀痰から分離されたL. pneumophila SG1 2株と施設の浴槽水等由来22株についてPFGEによる遺伝子型別解析を行ったところ、施設由来株は5種類のパターンに分けられ、このうちの1パターン(8株)が患者由来株と同一であった()。

5.まとめ
(1)発生当初、汚染源は循環装置や配管にあると考え、高濃度塩素やバイオフィルム対策剤を使用して循環装置や浴槽の消毒を行ったが、再検査により当該菌が検出されたため、従来からバイオフィルムに効果があるといわれている過酸化水素水による消毒を、原因として疑われた地下貯湯槽から循環装置、浴槽まで実施したところ、当該菌は検出されなくなった。このことから、レジオネラ発生時には、施設のあらゆる場所が当該菌の汚染源の可能性があると想定して消毒を行う必要がある。

(2)施設は日常の循環装置の消毒として週に1度10mg/l程度の高濃度塩素を含んだ浴槽水を循環させていたが、十分な効果がなかったことから、バイオフィルムが生成したと考えられた。今回消毒に用いた過酸化水素水を今後も定期的に使用する必要がある。

(3)施設側は浴槽水の遊離残留塩素を測定し、記録を残していたが、立入検査の際には0.2mg/l未満のことがあり、管理に不十分なところがあった。アルカリ性の温泉は、塩素系薬剤の効果が低下することを念頭に、衛生管理を行う必要がある。

6.課 題
利用者の健康調査に関して、期間中に約1万人という数の多さから、関係自治体を通しての調査まで行えず、旅行社を通しての確認が主となった。全国紙への社告、新聞報道があったとはいえ、十分な対応とまではいえず、課題を残した。

岐阜県飛騨保健所 小窪和博 中村良介
岐阜県保健環境研究所 門倉(三輪)由紀子 白木 豊
久美愛厚生病院 横山敏之

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