秋田県において初めて確認されたSHV-12型ESBL産生大腸菌について
(Vol. 31 p. 209-210: 2010年7月号)

基質特異性拡張型β-lactamase(ESBL)産生菌は1983年にKnotheらにより世界で初めてKlebsiella pneumoniae およびSerratia marcescens で報告された。日本においては1995年に石井がToho-1型(CTX-M型)ESBL産生大腸菌を報告した。日本では欧米で主流となっていたTEM型、SHV型のESBL産生菌の報告は少なく、CTX-M 型ESBL産生菌の分離頻度が高いことが知られている。秋田県においても、これまで医療機関よりESBL疑い株を800件以上受領し、PCR等により確認検査を実施しているが、その半数以上はCTX-Mを保有していた。SHVに関してはこれまで20株がPCRによるスクリーニング検査で陽性になっているが、すべてCTX-Mを同時に保有していたため、詳細な解析はなされていない。今回、2010年4月に医療機関において消化器系の担癌患者のカテーテル尿から分離された大腸菌(ES-810)が、SHV型ESBLを保有していることを確認したので報告する。

ES-810はKB法による薬剤感受性試験の結果、β-ラクタム薬、ニューキノロン、テトラサイクリンに耐性を示す多剤耐性菌であることが確認された(表-a)。セプポドキシム、セフタジジムおよびセフォタキシムの3剤についてクラブラン酸阻害試験を行ったところ、各薬剤の阻止円がクラブラン酸により5mm以上の拡大を認めたため、ESBL産生菌であると考えられた(表-b)。PCRによるESBL産生遺伝子の検出を行ったところ、bla CTX-Mを保有せず、bla TEMおよびbla SHVの保有が確認された()。次に、bla TEMおよびbla SHVの全長を遺伝子増幅し、シークエンス解析を行った(Perilli M, et al ., J Clin Microbiol 40: 611-614, 2002; Yagi T, et al ., FEMS Microbiology Lett 184: 53-56, 2000)。配列の相同性解析により、ES-810の保有するbla TEMはTEM-1型の配列と100%一致した。一方、bla SHVは35番目のアミノ酸がLeuからGlnに、238番目のGlyがSerに、240番目のGluがLysに置換されたSHV-12型の配列と100%一致し、ESBLであることが確認された。

ESBL産生菌は、現在国内で細菌感染症の治療のために広く使われている第三世代セファロスポリン薬に耐性を示し、特に、重篤な基礎疾患や手術後などで身体の抵抗力が低下している患者に敗血症、髄膜炎、肺炎、創部感染症、尿路感染症などを惹起する場合があり、院内感染原因菌として問題視されている。今回、ES-810が分離された患者に関しては、本菌による感染症の発症はなく、抗菌薬の使用もなかった。

SHV型ESBLの報告は国内では極めてまれであるが、今回秋田県においてもSHV型ESBL産生菌の侵淫が確認されたことから、これまでCTX-M 型が主流であったESBLが多様化する可能性があり、今後もCTX-Mだけではなくその他のESBLに関しても注意が必要であることが示唆された。特に、最近では腸管出血性大腸菌(Ishii Y, et al ., J Clin Microbiol 43: 1072-1075, 2005; 近ら, 感染症学雑誌 79: 161-168, 2005; 今野ら, IASR 28: 166-167, 2007)や赤痢菌(下迫ら, IASR 28: 45-46, 2007)からもESBLが確認されている。ESBL産生菌は臨床上のみならず感染症対策および食品衛生行政上も重要な課題となっており、今後さらに薬剤耐性菌の蔓延防止や新たな耐性菌の出現を監視していくことが必要と思われる。

秋田県健康環境センター
保健衛生部細菌班 今野貴之 八柳 潤 齊藤志保子
大館市立総合病院
第二内科 小沼 譲
ICD 高橋義博
臨床検査科 太田和子

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る