サポウイルス集団感染事例―福岡市
(Vol. 31 p. 213-214: 2010年7月号)

2010年4月、福岡市内においてサポウイルス(SV)による集団感染事例が発生したので、この事例の概要について報告する。

事例の概要:福岡市内の飲食店で会食した1グループ31名のうち16名が、4月26日4時頃から下痢、嘔吐などの食中毒様症状を呈した。このグループは大学のサークル仲間で、2日前の4月24日、17時頃から会食し、その2時間後には、全員が別の飲食店で二次会を行っていた。主な臨床症状は、下痢が11名(68%)、嘔気が11名(68%)、腹痛が10名(63%)、発熱が8名(50%)、嘔吐が7名(44%)であった。患者発生状況は図1に示す流行曲線のとおり、4月26日の午後がピークであった。

病因物質の検査:保健所より患者5名の便が搬入され、各食中毒菌およびノロウイルスの検査を実施したが、いずれの病原体も検出されなかった。そこで、感染性胃腸炎の原因となるSV・アストロウイルス・アイチウイルスの遺伝子検出を行った。SVの検査は、Vinjeら1) の方法に準じRT-PCRで検出し、Okadaら2) の方法により、それぞれのgenogroupに特異的なプライマーを用い、SVの確認と型別を行った。その結果、患者5名中4名からSVが検出され、いずれもgenogroup Iであった。患者らが利用した2施設の飲食店従業員6名の検便を実施したが、SVは検出されなかった。

SVの遺伝子解析:患者4名から検出されたSVのPCR産物についてはダイレクトシークエンス法を用い、capsidの領域約400塩基の配列を決定した。そして、Hansmanら3) の参照株を用い、NJ法による系統樹解析を実施した。その結果、患者4名から検出された4株はHu/SLV/Stockholm/318/97/SE(AF194182)に類似し、遺伝子型GIに分類され(図2)、4株とも塩基配列が完全に一致した。

まとめ:患者5名中4名からSVを検出したこと、2施設の飲食店で飲食した2日後に発症のピークがあることから、上記のいずれかの施設においてSVの単一曝露が発生したものと推定された。当該2施設の従業員に体調不良者がおらず、従業員検便からSVが検出されなかったこと、患者らのグループ以外から苦情がないこと、二次会の施設のトイレで当該グループが嘔吐していたとの情報があることから、本事例は人―人感染の可能性もあり、食中毒とは断定できなかった。なお、本事例は福岡市内で初めて確認されたSVによる感染性胃腸炎の集団事例であった。乳幼児の散発性下痢症の起因ウイルスとして知られているSVは、ノロウイルスと比べ検出報告数が少ないが、今後はSVの発生動向に注意が必要である。

 参考文献
1) Vinje J,et al ., J Clin Microbiol 38: 530-536, 2000
2) Okada M,et al .,Arch Virol 151: 2503-2509, 2006
3) Hansman G,et al .,J Clin Microbiol 45: 1347-1349,2007

福岡市保健環境研究所 川本大輔 梶山桂子 宮代 守 樋脇 弘
福岡市城南保健所
福岡市中央保健所

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