急性脳炎乳児髄液からのA群ロタウイルス検出事例
(Vol. 31 p. 214: 2010年7月号)

下痢発症前に採取した急性脳炎乳児髄液から、A群ロタウイルス遺伝子を検出したので報告する。

患者は1歳6カ月の男児。2010年3月25日に発病。小児科定点病院を受診し入院。38℃の発熱があり、1〜2時間おきに3回ほど間代性痙攣がみられた。意識ははっきりせず、うとうとしているような嗜眠性状態を呈し、注射に対しても無反応で、痛みを感じる様子はみられなかった。この段階ではまだ下痢はしておらず、病原体検査のため、髄液を採取した。このような症状のとき、髄液は通常わずかに細胞が確認されるが、この髄液には全く細胞が見られなかった。なお、痙攣が見られたのはこの日のみであった。3月27日、まだ39.6℃の発熱があり、嘔吐はないが、軽度の下痢が見られた。簡易キットでは、A群ロタウイルスは検出されなかった。3月29日、平熱に戻り、退院。

PCRまたは分離培養検査は、25日採取の髄液と27日採取の便に対して実施した。症状から、髄液は脳炎または髄膜炎、便は感染性胃腸炎の原因ウイルスを主に検査した。A群ロタウイルスの検査は、ウイルス性下痢症診断マニュアルに記載のRT-PCR法で行い、両検体からG3型遺伝子が検出され、シークエンスで確認した。その他のウイルスは、検出されなかった。

髄液からのA群ロタウイルス検出事例はいくつか報告があり、当研究所もその可能性を考慮し、下痢症状を呈する患者の髄液が得られた場合、髄液のA群ロタウイルス検査を実施していた。しかし、今回の事例は、下痢症状を呈する以前に採取された髄液からの検出であったことから、下痢の症状がない場合でも、中枢神経症状を呈する場合は、髄液に対してA群ロタウイルス検査を実施するべきではないかと考える。

静岡市環境保健研究所 井手 忍 柴原乃奈
静岡赤十字病院小児科 大河原一郎

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