はじめに
流行性角結膜炎(EKC)患者の結膜ぬぐい液から検出されるアデノウイルス(AdV)としては37型、8型および19型などの血清型があるが、近年、新型として53型および54型が報告された。
福井県では、これまでウイルス分離を中心にAdVの検出および同定を行ってきた。しかし、分離陰性である検体も多く、その対応に苦慮していた。今回、アデノウイルスレファレンスセンターとして開発した54型と53/22型を検出するLAMP法を用いて、AdVの検出および同定を試みたので報告する。
材料と方法
2004〜2009年、福井県内の眼科定点においてEKC の患者から採取された結膜ぬぐい液113検体を材料とした。MinElute Virus Spin Kit(QIAGEN) 等によりAdV遺伝子を抽出し、AdV54型と53/22型をそれぞれ検出するLAMP法(2010年5月に藤本らによって衛生微生物技術協議会で報告された手法)で同定した。また、併せて2009年の衛生微生物技術協議会でマニュアルとして示された方法(Miura-Ochiai R, et al ., J Clin Microbiol 45: 958-967, 2007に準じた検査法)によりAdVのヘキソン領域を増幅するPCRを実施したのち、増幅産物のうち350bpの塩基配列をダイレクトシークエンスにより決定し、BLAST解析を行い同定した。
結果と考察
LAMP法により54型が63検体、53/22型が4検体検出された。この他にシークエンス法により37型が26検体、3型が11検体、2型および19型が各1検体検出された。ふたつの方法を併せると、113検体中、106検体がAdV陽性となった(陽性率93.8%)。新型と認定された54型が半数以上を占めたのに対し、EKCを起こすAdVの主要な型のひとつであるとされてきた8型は全く検出されなかった。シークエンス法では54型は同定可能であったが、LAMP法陽性でもPCR陰性であったのが2検体あった。53型については解析部位の塩基配列(350bp)が37型と53型で100%相同であるため、これだけでは同定できず、LAMP法の結果(53型または22型)と組み合わせて53型と同定した。
以前はCaCo-2細胞とHEp-2細胞を用いて1週間ずつ3代まで継代培養を行ったが、54型は63検体すべてが陰性であった。53型の4検体はCaCo-2細胞でCPE(+)となり、8型、19型および37型などの抗血清を用いた中和試験では8型に弱く反応していた。その他の型は37型の1検体と3型の2検体を除きウイルス分離陽性で、中和試験で同定可能であった。
年別にみると、54型は2004〜2006年に多く検出された。福井県では2005〜2006年にかけてEKCの比較的大きな流行があり、検体が多く搬入された。ウイルス分離ができなかったため、病原体検査マニュアルに掲載されている型別PCR法で8型と同定していたが、これらは新たな分類では54型であることが今回の検査で判明した。一方、53型は2004年の検体から3検体、2007年の検体から1検体のみ検出され、拡がりはあまりみられなかった(表1)。
今回検出された型は、病原微生物検出情報に追加報告し、2003年以前の検体についても今後調査して54型と53型の福井県への侵淫状況を明らかにする予定である。
福井県衛生環境研究センター
中村雅子 平野映子 小和田和誠 石畝 史 望月典郎
国立感染症研究所感染症情報センター
藤本嗣人 花岡 希 谷口清州 岡部信彦
山岸眼科クリニック 山岸善也