夏季におけるAH3亜型インフルエンザウイルス集団感染事例―新潟県
(Vol. 31 p. 264-265: 2010年9月号)

2010年7月末〜8月にかけて新潟県内においてAH3亜型インフルエンザウイルスによる集団感染事例があり、ウイルスが分離されたので報告する。

発生状況についての概略は以下のとおりである。7月27日2名、7月28日4名に38〜39℃台の発熱が見られ、抗菌薬や解熱剤等の内服薬治療など行ったが、8月2日には有熱者28名になった。その他数名に微熱や咽頭痛が認められた。8月2日に患者1名にインフルエンザ簡易検査を実施したところA型陽性となった。残りの有熱者に対しても簡易検査を実施したところ、32名中18名がA型陽性となった。患者の多くは高齢者であり、新型および季節性インフルエンザの予防接種も行われていた。その後、A型陽性者には、点滴やオセルタミビルにて治療が行われ、感染予防対策がとられた。

管轄保健所より当研究所に病原体検査の依頼があり、簡易検査においてA型陽性となった患者10名(年齢構成50代〜90代)の咽頭ぬぐい液が8月3日に採取され、同日搬送された。MDCK細胞によるウイルス分離と併せてリアルタイムPCR検査も実施した。リアルタイムPCR法では10検体中10検体すべてAH3遺伝子が確認された。その後8検体からウイルスが分離された。このMDCK細胞から分離された8株について、国立感染症研究所から配布された2009/10シーズンウイルス同定用キットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験(0.5%モルモット赤血球を使用)を行った結果、抗A/Uruguay/716/2007(ホモ価1,280)に対して5株がHI価40、3株がHI価80であった。一方、抗A/California/7/2009(H1N1)pdm(ホモ価2,560)に対してはすべての株がHI価<40、抗A/Brisbane/59/2007(ホモ価640)、抗B/Brisbane/60/2008(ホモ価5,120)および抗B/Bangladesh/3333/2007(ホモ価2,560)に対してはHI価<10であり、AH3亜型と同定された。しかし、ワクチン株A/Uruguay/716/2007に対する反応性が16倍以上減少した株であった。

新潟県の2009/10シーズンは、第46週(11月中旬)をピークとして、新型インフルエンザAH1pdmが流行し、2010年第12週(3月中旬)で定点当たり患者数1を下回り、流行が終息したと思われた。4月以降の、病原体定点からのインフルエンザウイルスの検出状況では、4月にAH1pdmが2株、B型が3株、5月にB型が1株分離され、6月15日に2歳の患者から採取された検体からAH3亜型が分離されていた。このAH3亜型分離株は、抗A/Uruguay/716/2007(ホモ価1,280)に対してHI価320であった。

現在、今回の集団感染事例と6月に検出されたAH3亜型株の遺伝子解析を実施している。

新潟県では今まで夏季におけるインフルエンザ集団発生はほとんど報告が無いが、今後季節を問わず、インフルエンザの発生に注意する必要がある。

新潟県保健環境科学研究所
昆 美也子 渡部 香 田澤 崇 渡邉香奈子 田村 務
新潟県長岡保健所 野崎俊江 風間 茂

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