愛知県内で検出されたD9型麻疹ウイルス−輸入症例を発端とした感染事例
(Vol. 31 p. 271-272: 2010年9月号)

2010年7月〜8月に愛知県内で麻疹と診断された患者3例から、D9型麻疹ウイルス遺伝子を検出したので報告する。

患者1:1歳男児。フィリピンに1カ月半滞在後6月28日に帰国。7月1日発熱、4日発疹出現し翌日入院、8日麻疹と診断。麻疹ワクチン(MCV)接種歴なし。

患者2:17歳女性(患者1の家族)。患者1帰国後7月3日まで接触。同日MR接種(1回目)。7月12日発熱、15日発疹およびコプリック斑より麻疹と診断。

患者3:1歳男児。7月19日に発熱、いったん解熱後22日に再度発熱し、29日に発疹出現、8月2日麻疹と診断された。MCV接種歴なし。海外渡航歴なく患者1,2とは面識はないが、7月5日に患者1と医療機関外来で接触の機会があった。

8月24日現在患者3以外の感染拡大は確認されていない。

患者1の血清(7/2採取)、患者2の血餅(7/12採取)、患者3の末梢血単核球(8/6採取)および咽頭ぬぐい液(8/2採取)を検体としてRT-nested PCR法による麻疹ウイルス遺伝子検出およびVero/hSLAM細胞接種によるウイルス分離を試みた。PCR法ではNおよびH遺伝子がすべての検体から増幅されたが、ウイルス分離は陰性であった。患者1の検体は26日間冷蔵後であったが遺伝子検査陽性であった。なお血清ELISA(IgM)抗体検査結果は患者1(7/2採取:9.32)、患者2(7/12採取:0.33、7/17採取:13.4)、患者3(8/6採取:17.6)と、患者2の初回検体を除いて陽性であった。

患者1〜3の検体由来N遺伝子456塩基配列は同一であり、系統樹解析の結果、遺伝子型D9に型別された(図1)。BLAST検索では100%相同配列は見出されなかったが2010年に検出されたMVs/Southampton.GBR/12.10が最も相同性が高かった(図1)。D9型は2008年にタイ、2005年にマレーシアより分離報告があり、フィリピンにも侵淫している可能性は高い。

今回の事例は当初よりフィリピンを感染地とする輸入症例と家族内感染が疑われたが、遺伝子解析に基づく分子疫学から、新たに家族以外の二次感染を疑う1例が加わった。わが国も輸入麻疹に対する監視と分子疫学調査を要する時期にさしかかったと考えられる。

愛知県衛生研究所
安井善宏 伊藤 雅 小林慎一 山下照夫 藤浦 明 皆川洋子
安城更生病院 柴田陽子
川島小児科水野医院 水野周久
岡崎市民病院 鬼頭真知子
岡崎市保健所 土屋啓三 櫛原和貴子 長野 友 片岡 泉 犬塚君雄

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