A型肝炎ウイルスによる食中毒事例−新潟市
(Vol. 31 p. 291-292: 2010年10月号)

2010(平成22)年3月、新潟市内の事業所でA型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒事例があった。その概要を報告する。

事件の概要:3月31日および4月5日に、新潟市内の医療機関から新潟市保健所にA型肝炎患者の発生届が出された。保健所の調査の結果、患者2名のそれぞれの家族が同一の事業所に勤務しており、その事業所で2月の中旬、海産物を従業員で分け、家庭に持ち帰り喫食していたことが判明した。保健所では、その海産物を介した食中毒を疑い疫学調査を実施した。また、衛生環境研究所での検査の結果、すべて同一の遺伝子塩基配列を持つHAVが検出された。

検査対象および方法:届出患者の便2件を含む海産物を喫食した者の便23件(表1)および患者らの家族等18件、合計41件を採取し、本研究所にてHAVの検査を実施した。検査はRT-PCR法(国立感染症研究所・病原体検査マニュアルおよび平成21年12月1日付食安監発1201第2号による「A型肝炎ウイルスの検出法について」)で行った。陽性の検体についてはシークエンス(Gene Rapid:ダイターミネーター法)を行い、遺伝子型検索を実施した。

検査結果:上記、海産物を喫食した者の便23件中5件からHAVが検出された(表1)。遺伝子解析の結果、いずれもIA型のHAVで、VP1-2A領域の遺伝子塩基配列も一致した。DDBJにおけるBLAST検索では、HAV-DE-2007/08-218株(EU825857)に近縁であった。また、2006年に本市で発生した食中毒事例4株および2010年2月の本市での散発事例1株とは、その遺伝子塩基配列は異なっていた。

患者等疫学情報:HAV検出者は5名であり、うち4名は3月21日〜4月4日にかけて発症していた。症状は、発熱、食欲不振および黄疸等であった(表2)。また、無症状病原体保有者が1名であった。年齢構成は、30代が2名、40代が1名および50代が2名であった(表3)。海産物を喫食した23名に対し喫食状況を確認したところ、患者らはこの海産物を加熱せず生で喫食していたことが判明した(表1)。

HAVを検出した5名の共通点は次の2項目であった。1)本人あるいは家族が同一の事業所に勤務していた。2)その事業所で分け持ち帰った海産物を加熱せず生で喫食した。

一般に、これらの海産物による食中毒では既に喫食されているなど、原因と推定される食品のウイルス検出は困難である。今回の事例も食品の検査は実施できておらず、生産地域での発生状況の確認調査となった。その結果、海産物の生産海域におけるHAVの自主検査の結果は陰性であり、また、その生産地域においてもA型肝炎の患者が発生していないことなどから、この海産物を原因食品と特定することは難しいとの判断により、保健所は原因食品および原因施設不明の食中毒事件とした。

今回は、症状が重症化し医療機関へ入院した発症者が3名いたが、劇症肝炎にはいたらず、幸いに全員回復した。今後、生産地域を管轄する関係機関や国と連携し、原因食品の探知まで追跡できる体制の整備が必要と思われた。

本事例に関して疫学調査等の情報収集に尽力いただいた新潟市保健所食品・環境衛生課各位およびHAV遺伝子の解析にご協力ご助言いただいた国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部・野田衛先生ならびに国立感染症研究所ウイルス第二部・石井孝司先生に深謝いたします。

新潟市衛生環境研究所衛生科学室
齊藤哲也 山本一成 宮嶋洋子 田邊純一

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