2010年に富山県で検出されたエコーウイルス30型の遺伝子解析
(Vol. 31 p. 298-300: 2010年10月号)

エコーウイルス30型は、国内においては2007〜2008年の無菌性髄膜炎の主な原因ウイルスであった1) 。その後、2010年は日本での検出数は少ないが1) 、ヨーロッパでは、2010年6月からセルビア、ラトビアにおいてエコーウイルス30型による無菌性髄膜炎が流行している2, 3) 。富山県では2010年は9月までに、4名の無菌性髄膜炎患者の報告があったが、エコーウイルス30型は検出されていない。その他の疾患では、県内の小児科医療機関を受診した胃腸炎患者および上気道炎患者各1名からエコーウイルス30型が検出されている。胃腸炎患者は1歳男児、上気道炎患者は4歳男児であり、それぞれ4月30日に採取された糞便、7月24日に採取された咽頭ぬぐい液からPCR法および細胞培養法によりエコーウイルス30型が検出された。そこで、これらのウイルスの由来を調べるために、VP1領域の塩基配列(一部分:746塩基)を解析し4) 、GenBankに登録されているウイルスと比較した。

図1にエコーウイルス30型のVP1領域の系統樹を示す。上記2症例から検出されたエコーウイルス30型は、富山県内の下水流入水から2008年1月〜2010年8月までに分離されたエコーウイルス30型と同一のクラスターに属し、2009〜2010年、2008年の下水由来株との一致率はそれぞれ98.0〜99.6%、96.4〜97.2%であった。これらの株は、2003〜2004年に神戸、韓国、マレーシアで検出されたウイルスと相同性が高く(約93〜96%)、近年のイギリス(2007〜2008年)、韓国(2008年)、ロシア(2008〜2009年)で検出されたウイルスとの相同性は約80%と低かった。このため、本症例のエコーウイルス30型は、2008年以降に富山県内で不顕性あるいは軽症で感染が続いているウイルスが由来であり、他の地域から侵入した可能性は低いと考えられた。

富山県における2症例はともに散発例であり、症状は軽度である。しかしながら、エコーウイルスは無菌性髄膜炎の原因となるため、流行には注意が必要であり、保育園等での感染伝播に注意したい。

 参考文献
1) 病原微生物検出情報月報.  http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html
2) Cosic G, et al ., Euro Surveill 2010; 15(32). pii: 19638
3) Perevoscikovs J, et al ., Euro Surveill 2010; 15(32). pii: 19639
4) Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 38: 1170-1174, 2000

富山県衛生研究所 岩井雅恵 堀元栄詞 小原真弓 小渕正次 倉田 毅 滝澤剛則
富山県砺波厚生センター 川越久美子
富山県高岡厚生センター 中村純香
国立感染症研究所 清水博之 吉田 弘

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