ノロウイルスGII/4の2008a亜株の動向とイムノクロマト法の改良
(Vol. 31 p. 316-317: 2010年11月号)

GIIノロウイルス(NoV)の中でも特に遺伝子型がGII/4 のNoVは、過去に大規模な流行を繰り返してきた。これは、免疫圧力によって出現した新たな亜株が次々に流行を引き起こしたと考えられている。GII/4亜株は、検出された西暦とアルファベットのオーダーでGII/4 2006a 、GII/4 2006bのように示され、区別されている。GII/4 2006b亜株(2006b)は、2006〜2007年の冬期に日本でも大流行した亜株であり、その後も本年に至るまで継続して検出されている。

新たなGII/4亜株の出現は、新たな大流行につながる可能性があるため、GII/4亜株の出現状況を継続して監視していたところ、2007年12月にオランダでGII/4の新亜株として報告されたApeldoorn317/2007/NL(AB445395)に近縁なGII/4亜株が、2008年11月に新潟県内で発生した集団胃腸炎患者から検出された。この亜株は、Motomuraら1) によって、2008a GII/4 sub-type(2008a)として報告された。2008aは、北海道、岩手県、大阪府、愛知県でも存在が確認された。

2008年11月〜2010年3月の間に、新潟県内で発生した食中毒の疑い事例、および胃腸炎の集団発生事例において、保健所から病原体の検索依頼があった148事例中109事例からNoVが検出された。これらのうちGIIが検出された90事例中76事例について遺伝子型別を実施したところ、GII/4:39事例、GII/6:19事例、GII/2:9事例、GII/3:7事例、その他:4事例であった。GII/4陽性の33事例に由来する株についてP2領域の遺伝子解析を実施したところ、11事例が2008aに極めて相同性が高かった。22事例は2006bに相同性が高く、依然として2006bが主な亜株として流行していると考えられたが、2009/10シーズンと2008/09シーズンにおける2006bと思われる亜株の検出頻度を比較すると、2006bが減少し、2008aの割合が増加する傾向が認められた。

P2領域を含む196アミノ酸配列を用いた系統解析の結果、2008aはbootstrap値100で2006bと別クラスターを形成した(図1)。2010年2月以降に新潟県A市内で発生した4件の集団事例から検出された2008a 4株(10-206、238、304、308)は、bootstrap値 100でアメリカ、フランス、香港など海外で検出された株を含むクラスターを形成し、国外からの侵入が示唆された。2008aは、デンマーク、オーストラリア、韓国でも検出されたことから、世界に広く浸潤していると考えられる。2009/10シーズンでは、2006bの減少とともに、2008aやGII/4以外の遺伝子型が占める割合が増加する傾向が観察されており、2006bに変わる新たな亜型の流行を捉えるために、継続した監視が必要である。

一方、NoVのイムノクロマト迅速診断法(IC法)が開発されてから、多くの医療施設、高齢者福祉施設等で活用されている。IC法の感度、特異性はそれぞれ81.1%、100%、RT-PCR法との一致率は89.6%である。遺伝子型ではGII/4を含む23遺伝子型を捕捉可能な抗体が使用されている。しかし、上述の2008aが検出された糞便検体は、IC法で陰性反応を示した。本IC法では、既存のGII/4 亜株2006a、2006b等は検出可能であったことから、2008aに固有なアミノ酸残基の変異が、抗体との反応性に影響を与えている可能性が考えられた。我々は、2008aに対するIC法の感度向上を図るため、2008aのウイルス様中空粒子(VLPs)を作出し(図2)、2008aを認識するモノクローナル抗体の作製に成功した。現在、この抗体を用いてIC法の改良が進行中である。

 参考文献
1) Motomura K, et al ., J Virol 84: 8085-8097, 2010

新潟県保健環境科学研究所
田村 務 田澤 崇 渡邉香奈子 渡部 香 昆美也子
堺市衛生研究所
三好龍也 内野清子 吉田永祥 松尾光子 西口智子 田中智之
兵庫県立大学人間環境学科 北元憲利
国立感染症研究所 本村和嗣 佐藤裕徳

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