掃除機内ダストにおけるノロウイルスおよびサポウイルス汚染実態調査
(Vol. 31 p. 317-319: 2010年11月号)

我々は、2008年4月に長野県内の結婚式披露宴会場の床がノロウイルス(NoV)に汚染し、それが感染源と推定された集団感染症事例を経験した1) 。その際、当該会場専用の掃除機内ダスト(ダスト)からNoVを検出したことなどから、当該事例は食中毒の可能性は低く、塵埃とともに浮遊したNoVに曝露・感染した塵埃感染であったと推定された。この事例を通じ、我々はダストがNoVによる環境汚染の把握や感染経路の追及のための、有用な試料になり得ると考えた。そこで、ダストから簡便で効率よくNoVを回収するための検出法を確立し、ダスト中のNoV等における汚染実態調査を実施した2,3) ので、その概要を報告する。

2008年12月〜2009年3月(2008/09シーズン)および2009年11月〜2010年3月(2009/10シーズン)のウイルス性胃腸炎の流行時期に、一般家庭で使用されている掃除機内から採取された59検体(47家庭)を試料用ダストとした。ダストがNoVあるいはサポウイルス(SaV)陽性となった場合は、当該家庭のダスト試料を継続して採取し、ウイルス量の推移を調査するとともに、家庭内における胃腸炎患者の発生等についての聞き取り調査を実施した。ダストからのNoV等の回収はに示すとおり行い、RNA抽出用試料とした。NoVおよびSaVの定量は、それぞれKageyamaら4) およびOkaら5) の報告したリアルタイムPCR法に準じて実施した。リアルタイムPCR法で陽性となった試料の一部については、nested PCR法でカプシド領域の一部を増幅し、ダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定した。

一般家庭のダスト59検体中2検体(3.4%)がNoV陽性、1検体(1.7%)がSaV陽性であった(表1)。NoVおよびSaV がともに陽性となったダストは認められなかった。2008/09シーズンは35検体中NoVあるいはSaV陽性がそれぞれ1検体(2.9%)、2009/10シーズンは24検体中1検体(4.2%)がNoV陽性であった(表1)。

NoVが検出された2家庭におけるダスト中のウイルス量の推移をみると(表2)、A家庭の初回採取時(0日)のNoV量は105.7コピー/gで、30日に104.3コピー/gに減少し、60日で定量下限未満となった。また、0および30日に採取された試料から検出した株はいずれもGII/6に属し、カプシド領域の一部287塩基が100%相同であった。このことから、同一株によってA家庭内環境が少なくとも30日間汚染されていたことが示唆された。B家庭については、0日のNoV量が103.5コピー/gで、18日に102.5コピーとなり、50日で定量下限未満となった。

聞き取り調査の結果、A家族では初回採取時の14日前に4名中2名が嘔吐・下痢症状を呈していたことが、B家族では初回採取時の27日前に5名中1名が嘔吐症状を呈し、寝具を汚染していたことがそれぞれ確認された。このことから、これら有症状者がNoV感染者であり、これらの感染者によりそれぞれの家庭内環境が本ウイルスに汚染されたものと推察された。

一方、SaV陽性家庭で使用されていた掃除機からは、集塵器内ダスト(集塵器内)および集塵器奥のフィルター付着ダスト(集塵器奥)の2種類を試料として採取した。0日の集塵器内SaV量は106.6コピー/gで、34および45日に105.2コピー/gに減少し、77日に定量下限未満となった(表3)。集塵器奥から採取した試料では、68日でも106.2コピー/gで、定量下限未満になったのは 107日であった。0、45、68および105日の試料から検出された株について遺伝子解析を行ったところ、いずれもGIに属し、カプシド領域の一部399塩基の配列は100%相同であった。このことから、約3カ月にわたり家庭内環境あるいは掃除機のフィルター面が、同一株によって継続して汚染されていたことが明らかとなった。なお、当該家庭においても胃腸炎症状を呈する家族の存在について聞き取り調査を実施したが、明確な回答は得られなかった。

以上のように、家庭内のダストからNoVおよびSaVのゲノムを検出し、その汚染ダストの中にはウイルス量が106コピー/gを超えるものも存在していたことを明らかにした。さらに、ダストのNoV、SaVの汚染は長期間にわたり継続したことから、ダストがNoV、SaVの感染源となる可能性が示唆された。今後、さらなる事例の調査が必要であるが、ダストの取り扱いに対する注意喚起が必要と考えられた。

 参考文献
1)吉田徹也, 他, IASR 29: 196, 2008
2)吉田徹也, 他, 食品中のウイルス制御に関する研究, 平成20年度総括・分担研究報告書: 165-171, 2009
3)吉田徹也, 他, 食品中のウイルス制御に関する研究, 平成21年度総括・研究分担報告書: 169-177, 2010
4) Kageyama, et al ., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
5) Oka et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006

長野県環境保全研究所感染症部
吉田徹也 宮坂たつ子 畔上由佳 内山友里恵 笠原ひとみ 上田ひろみ 長瀬 博 藤田 暁
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部 野田 衛

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