これら54事例について、遺伝子型を調べ、流行遺伝子型の傾向を解析した。
また、食中毒事例の食品について、その処理方法に若干の改良を加え、より高感度な検出を試みた。
ノロウイルス検索成績
糞便のNoV検査は厚生労働省の通知法(リアルタイムPCR法)、遺伝子型はダイレクトシークエンス法により実施した。
検出されたNoVの遺伝子群は、2009年度は39事例中GI単独5事例、GII単独32事例、GI+GII 2事例、2010年は15事例中GI単独2事例、GII単独13事例であった(表)。それらの遺伝子型を見ると、2009年度は遺伝子群GIが3遺伝子型5事例、遺伝子群GIIが4遺伝子型32事例で、最も多かったのは遺伝子型GII/4(23事例:58%)、次いでGII/2(7事例:17%)、GI/4(3事例:7%)、以下GI/8、GII/5、GII/6、GI/4+8、GI/1+GII/2、GI/8+GII/2が1事例ずつ確認された(図1)。
2010年度は15事例のうちGI単独2事例、GII単独13事例で、遺伝子群GIはいずれもGI/4であることが確認された。
一方、遺伝子群GII 13事例のうち最も多かったのはGII/2(8事例:54%)、次いでGII/4、GII/13(各2事例:13%)、GII/7が1事例であった(図2)。
2005年以降最も多く確認された遺伝子型はGII/4であったが、今年度はその検出割合が減少し、複数の遺伝子型に多様化する傾向が認められた。今後のNoV流行シーズンにおける遺伝子型に注目したい。
また、2009年度に検出されたGII/2は、リアルタイムPCR法で実測値平均105〜106コピーであったのに対し、2010年度に検出されたGII/2は実測値が数十コピーと少ない傾向が認められており、この原因について現在検討している。
食品からの検出
2010年6月に病院で発生した集団胃腸炎について、保存食品からのNoV検出を試みた。
本事例は、6月7日〜8日にかけて入院患者174人中37人と職員1人が、下痢、発熱、倦怠感、嘔吐等の症状を呈したもので、患者および調理従事者からNoV GII/2が検出された。このことから、汚染経路は食品取り扱い者の手指を介すると推定されたため、食品の前処理は、「A型肝炎ウイルス検出法」(平成21年12月1日食安監発1201第2号、監視安全課長通知)を参考に実施した。すなわち、食品をPBS(−)中で30分振盪後、10,000gで20分冷却遠心した上清にポリエチレングリコール6,000とNaClを加え、再度10,000gで30分冷却遠心して得られた沈渣にSDS-Tris Glycine bufferを加え再浮遊させた上清をRNA抽出材料とした。その結果、6月5日朝のパンとレタス、昼のご飯、夜の肉じゃがおよび6月6日の茶碗蒸しからNoV GII/2が検出された。
考 察
NoVには多数の遺伝子型が存在し、流行遺伝子型の推移はNoVの感染事例数の増加に深く関与すると考えられる。過去数年GII/4が主体の流行であったが、本県の2010年上半期における流行遺伝子型はGII/2が主流であった。検出される遺伝子型の多様化は全国的にも認められており、今後も流行遺伝子型の推移に注目する必要がある。
一方、食品からの病因物質の検出は、食中毒として行政判断するための重要な根拠となるが、食品からのウイルス検出は、食品のウイルス汚染量が低いと思われること、食品材料の検体処理工程で食品からのウイルスの分離・濃縮が困難であることなどから、その検出率はきわめて低い。そのため、パンソルビン・トラップ法やアミラーゼ処理法などが検討されている。今回、A型肝炎検査法を参考に実施した前処理法により、良好な結果が得られたことから、今後、添加回収試験等を行い、その有用性について検討を重ねる予定である。
静岡県環境衛生科学研究所
長岡宏美 湊 千壽 山田俊博 川森文彦 杉山寛治
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛