夏季に結婚式場で発生したノロウイルスによる集団胃腸炎事例−大阪市
(Vol. 31 p. 321-322: 2010年11月号)

2010年7月、大阪市内の結婚式・披露宴会場でノロウイルス(NoV)が原因と考えられる集団胃腸炎事例が発生したので、その概要を報告する。

7月6日午前、市内の結婚式場から「3日午後、当施設での結婚式・披露宴に出席した者のうち、6名が嘔吐、下痢等の症状を呈している」との届出が東部生活衛生監視事務所にあった。調査した結果、7月3日〜4日にわたり当該結婚式・披露宴会場を利用した4グループ80名(発症率50.3%)が嘔吐や下痢等の症状を呈していた()。さらにIグループは披露宴終了後、二次会を大阪市内の別施設で実施しており、二次会のみの参加者4名も同様の症状を呈していた。潜伏時間は、喫食後36時間を中心に16〜92時間であり、単一曝露による患者発生パターンを示す事例であった()。潜伏時間64時間以上の患者5名は聞き取り調査から家庭内での二次感染が疑われた。当該期間中は、4グループ以外に当披露宴会場の利用はなかった。また、Iグループの幼児が結婚式場と披露宴会場で嘔吐しており、吐物の処理は行われたものの、両施設とも適切な消毒等はなされていないこと、披露宴終了前に母親が幼児のオムツを交換した際、幼児は既に下痢を呈していたことも判明した。一方、施設従事者26名中15名が同様の症状を呈しており、うち1名は4グループの食事を担当していた調理従事者であった。

症状を呈している69名について、リアルタイムRT- PCR法によるNoV検査を実施したところ、59名からNoV GIIを検出した()。さらに、4グループ(Iグループの嘔吐・下痢を呈していた幼児および母親を含む)、Iグループ二次会のみの参加者および有症の調理従事者を含む施設従事者から検出された24株についてカプシドN/S領域遺伝子を増幅し、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定したところ、すべての株の塩基配列が一致し、GII/4型に分類された。患者便、調理従事者便、施設ふきとり検体について食中毒菌の検査も実施したが、原因となる食中毒菌は検出されなかった。

本事例は、患者発生パターンから施設内で一過性に曝露を受けたことによって発生した事例であると考えられ、患者には共通食が認められないことから、幼児の施設内での嘔吐が発端となったことが疑われた。しかし、調理従事者1名からも同じ塩基配列を有するNoVが検出されており、調理従事者から食品を介しての食中毒や、嘔吐物からの直接感染を併せた両方の感染経路による感染拡大の可能性も否定できなかった。

今回、事例の感染源や感染経路などの原因を特定することはできなかったが、結婚式という調査協力が得にくい状況の中で迅速に調査ならびに検査を実施し、吐物処理方法の指導やNoVが検出された調理従事者1名の就業を自粛させる等、施設側に適切な指導を行い、感染拡大防止に努めた。本事例は、冬季のNoV流行期以外での事例である。また、他にも非流行期のNoVによる集団胃腸炎事例1,2) が報告されており、夏季であってもNoVに対する衛生管理は重要であることが示された。

本事例に関して、疫学調査などの情報収集および患者糞便検査にご協力いただいた各地域の保健所および地方衛生研究所の各位に深謝いたします。

 参考文献
1)三好ら, IASR 26: 305-306, 2005
2)大内ら, IASR 29: 342, 2008

大阪市保健所東部生活衛生監視事務所
井川久史 大賀康弘 中山敬子 大西真司
大阪市立環境科学研究所
入谷展弘 改田 厚 阿部仁一郎 久保英幸 関口純一朗 小笠原 準 長谷 篤
大阪府立公衆衛生研究所
中田恵子 山崎謙治 左近(田中)直美 依田知子 久米田裕子
長野県環境保全研究所 吉田徹也

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