給食弁当を原因としたサポウイルスによる大規模食中毒事例―愛知県
(Vol. 31 p. 322-323: 2010年11月号)

カリシウイルス科のサポウイルス(SaV)は、主に乳幼児の感染性胃腸炎の原因ウイルスに位置づけられているが、近年は全国的に年長者のSaV集団感染事例の報告が増えている。2010(平成22)年1月に愛知県内の弁当調理施設を原因とする大規模食中毒が発生し、病因物質としてSaVが検出されたので、その概要を報告する。

事例の概要
2010年1月に、愛知県内のI弁当調理施設が調製した給食弁当を喫食した愛知県、三重県、岐阜県下の在勤者 3,859名のうち、680名(17.6%)が食中毒症状を呈した。有症者171名(男性144名、女性27名、平均年齢42.8歳)の主な臨床症状は、下痢158名(92.4%)、嘔気110名(64.3%)、腹痛109名(63.7%)、悪寒75名(43.9%)、嘔吐65名(38.0%)、倦怠感65名(38.0%)であり、下痢の頻度が最も高かった。図1に日時別の患者発生状況を示した。一峰性であり、平均潜伏時間は、1月21日の13時を基点として、41.9時間と算出された。

微生物学的検査
有症者9名と原因施設の従事者52名の糞便検体について、ノロウイルス(NoV)1) およびSaV 2) の定量検査をリアルタイムRT-PCR法で実施し、また食中毒原因菌検査も並行して実施した。SaVの遺伝子型は構造タンパクコード領域の上流域をOkadaらのプライマーSV-F13:14/SV-R13:14、SV-F22/R2 3) を用いてnested RT-PCR法で増幅後、ダイレクトシークエンス法で決定した。

検査結果
有症者9名と原因施設従事者52名の細菌学的検査およびNoV検査は、すべて陰性であったが、SaVが有症者7名(7/9)と従事者7名(7/52)から検出された。リアルタイムRT-PCR法による糞便1g当たりのSaVコピー数は、有症者で108〜1010コピー、従事者(2名が有症)で107〜109コピーと、検出コピー数には有意な差異を認めなかった。リアルタイム法でSaV陽性の14検体のうち、nested RT-PCRでSaV遺伝子を検出できた11検体(有症者6検体と従事者5検体)の系統樹解析の結果、有症者と従事者由来のSaVは互いに高い相同性を示し、検出SaVはGI/2に分類された(図2)。DDBJのBlast検索では、Sapovirus Hu/Oshima/2009/JP(AB518056)に最も近縁であった。

考 察
今回の食中毒事例から検出されたGI/2は、愛知県で過去に検出例のない遺伝子型であったが、本県の2009/10シーズンの感染症発生動向調査では、例年と異なる特徴を有するSaV流行は認められなかった。国内のGI/2型SaVの集団感染例として、2009年3月の北海道の小学校4) や2005年5月の宮崎県の知的障害者施設での事例5) が報告されているが、両事例ともに人−人感染による集団感染である。海外では2007年5月の台湾の大学でのGI/2の集団感染事例6) をはじめ、2007年以降、オランダ、スウェーデン、スロベニアなどのヨーロッパ諸国よりGI/2の集団発生が多数報告されている7) 。世界各地で同時多発的にGI/2型の集団発生が起きていると推察されるが、その要因は不明である。

また、GI/2型以外のSaVによる食中毒は、いずれもGIV型による2007年5月に中学生の修学旅行先の宿泊施設が提供した食事を原因とした事例8) や、同年10月に結婚式場の披露宴で提供された料理を原因とした事例9)が発生している。近年は、乳幼児よりもむしろ、GI/2型やGIV型による年長者間の集団発生が目立っている。

今回の事例では、弁当調理施設は時間差をもって、1本のコンベアーで3種類の弁当を調製していたが、3種類の弁当喫食者にそれぞれ食中毒患者が認められたことから、特定の食材や調理品の汚染よりも、手洗いの不備や手袋の不適切な使用により複数の調理品を汚染したことが要因と推察された。SaVが調理施設に持ち込まれた経緯は現時点で未解明であるが、今回の事例を通じて、SaVもNoVと同様に大規模な食中毒事例の病因物質となることが示唆された。

謝辞:本事例に関する情報を提供いただいた愛知県健康担当局生活衛生課に深謝致します。

 参考文献
1) Kageyama T, et al ., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
2) Oka T, et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006
3) Okada M, et al ., Arch Virol 151: 2503-2509, 2006
4) Miyoshi M, et al ., Jpn J Infect Dis 63: 75-78, 2010
5) IASR 26: 338-339, 2005
6) Wu FT, et al ., Emerging Infect Dis 14: 1169-1171, 2008
7) Svraka S, et al ., J Clin Microbiol 48: 2191-2198, 2010
8) IASR 28: 294-295, 2007
9) IASR 29: 198-200, 2008

愛知県衛生研究所
小林慎一 藤原範子 水谷恵美 安達啓一 伊藤 雅 安井善宏 山下照夫 平松礼司 下岸 協 皆川洋子
一宮保健所
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