移植後脳炎を疑い、ミシシッピ州の開業医から米国疾病対策センター(CDC)へ2009年12月14日に報告された2事例の報告である。両症例は同一の臓器提供者からの腎移植を受けていた。CDCでの剖検検査により、12月16日に臓器提供者の脳からアメーバ感染の病理組織所見を得、提供者と腎移植者2名の検体をさらに検査した結果、非常にまれな病原体であるバラムチア(Balamuthia mandrillaris )の移植による感染による肉芽腫性アメーバ性脳炎(Granulomatous Amebic Encephalitis: GAE)であることを免疫組織化学染色と間接免疫蛍光染色で確認した。この病原体は、土壌生息の自由生活性アメーバである。
腎移植を受けた症例の予後はともに不良で、31歳の女性(高血圧・糖尿病)は移植後20日目で頭痛などが発現し、22日目に意識消失、75日目に死亡した。移植後26日目の脳生検でバラムチアのアメーバ脳炎が確認されている。27歳男性(巣状分節性糸球体硬化症)は生存しているが、移植後20日に突然の頭痛と嘔吐に続き、意識低下と痙攣を発症し、救急外来を受診。前出死亡例と同じ病院へ3日後に転送され、MRI および髄液所見などからバラムチア感染が疑われ、前出例と同様の治療を受けた。PCRと髄液培養によって感染確定診断された。2カ月の昏睡状態の後、右腕麻痺、両下肢の脱力、間欠性の視野欠損を含む神経学的な後遺症を残し、移植後159日で退院となった。さらに同じ提供者から心臓と肝臓の移植が2名(2歳男児、7歳男児)に行われたが、予防的投薬治療(preemptive therapy)を受け、現在まで感染の兆候は見られていない。
臓器提供者は健康な4歳男児、ケンタッキー州出身で、2009年10月25日に迅速診断キットによりA型インフルエンザの感染と診断され、抗ウイルス剤投与によりいったんは改善したが、11月3日に突然の頭痛と痙攣で入院し、髄液、MRI、臨床の所見から、インフルエンザ後に自己免疫性の神経疾患である急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症したと考えられていた。原因を確定できないまま経過し、くも膜下出血と脳幹ヘルニアをおこし、11月19日に脳死宣告となった。翌20日に、心臓、肝臓、両側腎が3カ所の移植センターで4人の移植患者へ提供され、臓器移植が行われた。その後4州(ミシシッピ、ケンタッキー、フロリダ、アラバマ州)協力の調査から、臓器提供者はケンタッキー、ミシシッピ、フロリダ州に在住歴があり、戸外で土壌と触れる機会の多い遊びをよくしており、未処理の井戸水で水遊びをする機会もあり、これらが曝露機会と推定された。前駆症状として、痙攣を起こす4カ月ほど前に兆候があったが、免疫不全などのリスク因子は確認されなかった。これに基づき、早期検知と予防の提言がなされた。
本症例は、臓器移植によりバラムチア感染を起こした初めての報告である。臨床家は、本感染が致死的脳炎となる可能性があることに注意し、移植に関わる機関は、原因不明の脳炎を死因とする臓器提供者の中に、バラムチア感染者がいる可能性を念頭に置く必要がある。提供臓器の受け入れに際して、リスク評価の対象に加えることができるよう取りはからう必要がある。
(CDC, MMWR, 59, No.36, 1165-1170, 2010)