これまで感染例のないシャワー水が感染源となったレジオネラ症事例を報告する。
2009年10月29日に医療機関から、レジオネラ症患者の発生届が保健所に提出された。患者は62歳男性で、10月23日から発熱し、25日に胸部レントゲン検査で肺炎像が確認されたため入院した。27日に尿中レジオネラ抗原が検出され、レジオネラ症の診断が確定した。入院から2日間はセフォゾプランおよびクリンダマイシンを投与していたが、レジオネラ症の診断確定した入院3日目にセフォゾプランおよびシプロフロキサシンに変更した。その後、患者は快方に向かい無事退院した。患者の既往歴として、4、5年前に悪性リンパ腫があり、化学療法治療、骨髄移植の結果、現在では寛解している。
レジオネラ症患者発生届出のあった10月29日に感染症法に基づく聞き取り調査を行い、その結果、発症の直近まで公衆浴場を利用していたことが判明した。その他に特筆すべき情報は得られなかった。同日、当該公衆浴場の現場調査を行い、衛生管理指導および採水を行い、11月2日にも追加の採水を実施した(表1)。レジオネラ属菌の検査は、東京都健康安全研究センターで実施した。11月4日の段階でシャワー水にレジオネラ属菌の発育が観察された。11月9日に検査結果が確定し、低温浴槽とシャワー水からそれぞれ1および260 CFU/100mlのレジオネラ属菌が検出された(表1)。
感染症法第15条に基づく積極的疫学調査の結果、患者が感染したのは、Legionella pneumophila 血清群1で、低温浴槽水からは、L. pneumophila 血清群8、シャワー水からは、L. pneumophila 血清群1が検出された。患者喀痰は、入院3日目の薬剤投与直後に採取したものである。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析により患者喀痰とシャワー水のレジオネラ属菌の遺伝子パターンが一致したことが12月4日に判明し、シャワー水が感染源であったことが確定した(図1)。
東京都健康安全研究センターからレジオネラ属菌検出の一報があった11月4日に、保健所はこの公衆浴場に対して安全が確認されるまで営業自粛をお願いし、レジオネラ属菌が検出された系統の洗浄・消毒作業の実施をするよう指導した。営業者は、11月4日から営業自粛し、洗浄・消毒作業を専門業者に委託して行うことになった。11月8日に洗浄・消毒作業が行われ、薬剤は過酸化水素を主成分としたものを使用した。当該施設においては、開業以来シャワー系統管内の洗浄・消毒を実施したことはなく、配管内にたまっていたさびや汚れ、ぬめりが大量に排出された。1回の洗浄・消毒作業でレジオネラ属菌をとりきることができず、11月10日に2回目の洗浄・消毒作業を実施した。洗浄・消毒後の水質検査で、レジオネラ属菌陰性が確認され、改善報告書、維持管理計画書の内容確認および現場の適切な衛生管理体制の確認ができたので、営業自粛を解除し再開となった。なお、再開にあたる水質検査は、民間検査機関で実施した。
文京区文京保健所
石山康史 大脇 彩 岡部咲子 濃沼正紀(現、文京区資源環境部) 中臣昌広 山下靖之
東京都健康安全研究センター微生物部病原細菌研究科
奥野ルミ 藤元琢也 貞升健志
東京都健康安全研究センター環境保健部環境衛生研究科
猪又明子 武藤千恵子 石上 武 楠くみ子 保坂三継