2010年7月末〜8月にかけて新潟県内においてAH3亜型インフルエンザウイルスによる集団感染事例があり、本月報Vol.31, No.9で<速報>を報告した。この事例より分離されたインフルエンザウイルスの遺伝子解析を実施したので結果を報告する。また、9月上旬に同一保健所管内の保育所でAH3亜型の集団感染事例があり、この事例で検出されたウイルス株と病原体定点サーベイランスにおいて6月に分離されたウイルス株を含めて報告する。
HA遺伝子の解析結果を図1に示す。集団感染事例から検出されたAH3亜型インフルエンザウイルス株[A/Niigata(新潟)/1143〜1150/2010]は、A/Niigata(新潟)/403/2009やA/Perth/16/2009に代表されるE62K、N144K、K158N、N189K置換を持つPerth/16クレードに属していた。また、集団感染事例株は2010/11シーズン(平成22年度)のワクチン株A/Victoria/210/2009とも同じクレードに属し近縁であったが、抗原部位のE50KをはじめN45S、P162Sのアミノ酸の相違があった。
保育所事例株[A/Niigata(新潟)/1250/2010]とサーベイランス株[A/Niigata(新潟)/1023/2010]は、Victoria/208クレードに分類され、2010年に全国的に検出されている株と近縁であった。集団感染事例と保育所事例は、同一保健所管内での流行であったが異なるクレードであり、同じクレードによる地域流行ではなかった。Perth/16クレードとVictoria/208クレードの両クレードのウイルスは、抗原性が互いに類似していると本月報Vol.31, No.9で報告されており、どちらのクレードも今年度のワクチンの効果が期待されている。今後HI試験による抗原性解析等も必要と考える。
NA遺伝子の解析結果を図2に示す。集団感染事例株は、HAの系統樹ではPerth/16クレードに属する株とクラスターを形成したが、NA遺伝子に共通してD251V、E381G、N402D、R430Sの4つのアミノ酸置換を有していた。また、集団感染事例株は、保育所事例株およびサーベイランス株とは、HA遺伝子での解析結果と同様に異なるクレードに属した。新潟大学医歯学総合研究科で行った薬剤感受性試験では、今回の集団感染事例株はすべてオセルタミビルおよびザナミビルに感受性であり、NA遺伝子に共通して見られる4つのアミノ酸置換は、オセルタミビルおよびザナミビルに対する耐性に影響を及ぼしていないと考えられた。
国内では、2010年9月以降検出されているインフルエンザウイルスは、AH1pdm、AH3亜型、B型それぞれあるが、AH3亜型が最も多く報告されている。また、AH3亜型では、遺伝子型で2つのクレードのウイルスが検出されており、今後の発生動向を注視する必要がある。
新潟県保健環境科学研究所
昆 美也子 渡部 香 田澤 崇 渡邉香奈子 田村 務
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座公衆衛生学分野
齋藤玲子 鈴木康司