三重県内における麻疹患者の発生―帰国者を発端としたD9型麻疹ウイルス検出事例
(Vol. 31 p. 327-328: 2010年11月号)

2010年8月、三重県内で帰国者よりD9型麻疹ウイルスが検出され、9月までに2例の麻疹患者と1例の麻疹ウイルス感染者の発生をみたのでその概要について報告する。

症例1:8歳女児。フィリピンに2週間滞在後8月14日に帰国。8月15日に発熱。8月20日発疹出現。8月16日〜20日にかけA病院受診。麻疹ワクチン接種歴無し。

症例2:9カ月女児。8月23日に発熱のためA病院受診。症例1との接触歴不明(受診日が異なる)。海外渡航歴無し。8月27日発疹出現後、いったん解熱。突発性発疹症を疑う。9月3日より再度発熱が見られ、発疹増悪。9月5日救急外来を経てB病院入院。麻疹ワクチン接種歴無し。

症例3:29歳女性(症例2の母)。9月11日発熱、9月13日B病院受診。受診時発熱および発疹を認め得ず。麻疹ワクチン接種歴不明。その後発疹は出現せず。

その後、9月29日時点で三重県内において新たな麻疹患者の発生は認められていない。

3例より得られた検体(血液、咽頭ぬぐい液、尿)に対しRT-nested PCR法による麻疹ウイルス遺伝子の検出とVero/hSLAM細胞を用いたウイルス分離を試みた。また、症例2、3についてはELISA法による抗体検査を実施するとともに、末梢血単核球(PBMC)を用いB95a細胞によるウイルス分離もあわせて実施した。

結果、症例1、2の血液、咽頭ぬぐい液、尿よりRT-nested PCR法により麻疹ウイルスH遺伝子およびN遺伝子が検出され、N遺伝子の遺伝子配列解析により、ともにD9型であると同定された(症例1のN遺伝子配列:AB587988)。また、症例3の尿よりH遺伝子のみが検出された。症例2については血液および尿よりHHV6B由来遺伝子も検出された。ELISA抗体検査結果は、症例2が再発熱時(9/3)より3病日目(9/6)においてIgM 7.14、IgG 3.9であり、症例3は−2病日(9/9)時点でのIgM 0.27、IgG 5.4、2病日目(9/13)のIgM 0.30、IgG 42.2であったため、血清学的検査からも麻疹ウイルス感染(再感染)が疑われる結果が得られた。ウイルス分離検査では、Vero/hSLAM細胞により症例1の咽頭ぬぐい液から、またB95a細胞により症例2のPBMCから麻疹ウイルスが分離された。

今回の事例は、海外帰国者を発端とする限局的な麻疹発生例であり、愛知県の事例(IASR 31: 271-272, 2010)と類似していた。症例1と症例2は同一医療機関の受診歴はあるものの、受診日が異なっており、直接の関連性は不明であった。また、愛知県の事例との疫学的関連性も見出せなかった。症例2においてはHHV6B遺伝子が検出されており、初期の発熱、発疹はHHV6Bによるものであった可能性が考えられる。今後、日本国内の麻疹清浄化に伴い、今回のような輸入感染例が増加すると思われる。症例の早期検知および蔓延防止には、海外帰国者および旅行者に対しての検査診断が重要であり、類似疾病との鑑別も必要であると考えられた。

三重県保健環境研究所 赤地重宏 田沼正路 大熊和行
津生協病院 堀内功一
川崎医科大学附属川崎病院 田中孝明
国立病院機構三重病院 一見良司 菅 秀 庵原俊昭
国立感染症研究所 駒瀬勝啓

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