2010年9月に、横浜市内の医療機関で麻疹と診断された患者からD8型麻疹ウイルス遺伝子が検出されたので報告する。
患者は5歳男児で、麻疹ワクチン接種歴はなかった。インドに2カ月半滞在後、9月2日に帰国した。9月5日から発熱、上気道炎症状が出現し、近医で処方された解熱剤を服用し、9日には37.7℃になるも、10日に再び38℃以上となり、医療機関を受診した。発疹(顔から体幹にかけて丘疹状)、コプリック斑、結膜充血が認められたため、臨床症状より麻疹と診断され、発生届および連絡票(注)が保健所に提出された。民間検査センターにおいて実施された9月10日採取血清の麻疹抗体検査の結果は、IgM 6.16、IgG 2.0であった。
9月10日に採取された患者の咽頭ぬぐい液、末梢血単核球、血漿および尿を検体として、市衛生研究所でRT-nested PCR法により麻疹ウイルス遺伝子検出を試みた結果、咽頭ぬぐい液、末梢血単核球および尿検体で麻疹ウイルスのHおよびN遺伝子が増幅された。これら3検体由来のN遺伝子増幅産物について、ダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し、系統解析を実施したところ、塩基配列はすべて一致し、検出された株(Mvs/Yokohama.JPN/36.10)は遺伝子型D8に分類された(図1)。GenBankに登録されている株との相同性検索では、配列が100%一致する株は見出されなかったが、2006年以降にインド、オーストラリア、カナダで検出されたD8型の株(MVs/Bijnore.IND/05.06、MVs/Bijnore.IND/07.06/2、MVs/Warangal.IND/08.07/2、Mvi/Sydney.Aus/3.06、Mvi/Sydney.Aus/5.06、Mvi/Sydney.Aus/6.06、MVs/Ontario.CAN/12.08)と99%一致した(454bp/456bp)。2009年に沖縄県で分離された株(MVi/Okinawa.JPN/37.09)との一致率は98%(448bp/456bp)であった。
D8型麻疹ウイルスは、インド、ネパール、バングラデシュなどに分布しているほか、これら以外の地域で輸入例として報告されている1) 。本邦においては、2009年に沖縄県で初めてD8型麻疹ウイルスに起因する症例が確認された2) 。今回の症例は、患者の渡航歴からインドを感染地とする輸入例と考えられた。10月15日現在、本症例からの二次感染例は確認されていない。麻疹患者発生数の減少に伴い、輸入例の監視の重要性は今後さらに高まるものと考えられる。
(注)横浜市では、発生届と合わせて「麻しん(はしか)連絡票」の記入をお願いしている。連絡票の内容は、患者の氏名・住所・所属施設等の個人情報、連絡票を福祉保健センターへ提出することへの患者本人あるいは保護者の同意の有無である。
参考文献
1) WER 81: 474-479, 2006
2) IASR 30: 299-300, 2009
横浜市衛生研究所
七種美和子 熊崎真琴 川上千春 宇宿秀三 野口有三 池淵 守 飛田ゆう子 高野つる代 蔵田英志
横浜市健康福祉局健康安全課
岩田眞美 紺野美貴 椎葉桂子 市川英毅 修理 淳
横浜市保健所 豊澤隆弘