2010年のエンテロウイルス71型の分離状況―大阪市
(Vol. 31 p. 326-327: 2010年11月号)

大阪市においては、手足口病と診断された患者検体が2010年2月中旬から本市感染症発生動向調査事業に搬入され始め、その後種々の診断名の患者検体からエンテロウイルス71型(EV71)が分離された。現在(2010年10月20日)のところ、本年8月までに採取・搬入された18名の患者検体から計23株のEV71が分離されている。EV71株が分離された18名の患者のうちの3名に中枢神経症状が認められたので、以下にこれら3名の臨床経過を記載する。

症例1:1歳8カ月の女児。6/14から発熱、6/15に嘔吐および項部硬直認め、前医入院となった。髄液検査を実施。細胞数500/μl、糖104 mg/dl、蛋白55 mg/dlと異常あり。その後けいれんが出現し、大阪市立総合医療センターへ転院。意識障害はなかったが、入眠中のミオクローヌスが強く、その都度覚醒し、啼泣した。症状からEV71による菱脳炎を疑ったが、MRIでは明らかな異常所見を認めなかった。軽症の菱脳炎と考えられた。その後の経過は良好で、6/18解熱し6/23に退院となった。

症例2:生後1カ月の女児。母が7/28から手足口病に罹患。患児は7/31から発熱あり。8/1に嘔吐2回。午前3時より短時間の無呼吸を繰り返すようになり、休日診療所から前医へ入院となった。頭部CT正常、髄液検査で細胞数180/μl、蛋白69 mg/dl、糖43 mg/dl。EV71による脳幹脳炎の可能性を考慮し、大阪市立総合医療センターへ転院し、人工呼吸を開始した。翌日には呼吸が安定したため抜管。MRIでは脳に異常なく、脳炎もしくは無菌性髄膜炎に無呼吸を伴ったと考えられた。8/6に退院となった。

症例3:2歳6カ月の男児。既往歴に発達遅滞と無熱性けいれんがあった。6/28けいれん出現。前医にて抗けいれん剤投与され止痙するも、意識レベルの改善なく、大阪市立総合医療センターへ転送。当院到着後も意識障害が持続、発熱が出現したため、急性脳症を疑い、気管内挿管の上バルビタール持続投与とステロイドパルス療法を開始した。頭部CTや髄液検査には異常なし。入院後けいれんはなく、意識回復し、脳波所見は良好であり、6/30抜管。後遺症なく、7/3に退院となった。急性脳症ではなく、けいれん重積症と考えられた。入院時の鼻汁からEV71が検出された。

2010年に大阪市で分離・同定された各EV71株における患者および検体情報をに示した。これらのEV71株の分離された18名中16名の患者年齢は5歳以下で、また、このうちの8名が1歳未満(1カ月〜10カ月)であった。各患者の診断名は、手足口病が10名、急性脳炎・脳症(けいれん重積を含む)が3名、その他が6名であった(一部重複を含む)。これらの患者検体をVeroおよびRD-18S細胞に接種して細胞観察を行ったところ、いずれの検体においてもVeroおよびRD-18S細胞の両方またはどちらかにおいて、エンテロウイルス様の細胞変性効果が認められたことから、ウイルス分離陽性と判定した。次に、これらの分離陽性株について、Vero細胞培養上清(RD-18S細胞のみで陽性となった株においてはRD-18S細胞培養上清)からRNAを抽出し、ランダムプライマーを用いて各cDNAを合成した後、VP4-VP2領域の約750bpを増幅するPCRを行った。その後、得られた各PCR産物の塩基配列の解読を行い、解読可能となった各分離株本領域内の550bp前後の塩基配列を用いて、BLAST検索(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov)を行った。この結果、表中に示した23株すべてが、2008年にシンガポールで分離されたEV71株(株名:NUH0075/SIN/08、AC番号:FJ172159)に最も高い相同性を示したことから、これらの株をEV71と同定した。また、RD-18S細胞にて分離された株およびVero細胞にて分離された一部の株について、国立感染症研究所から分与された抗EV71単味血清(BrCr)および各分離細胞を用いて中和試験を行った結果、実施株すべてにおいて中和の成立が認められた。

2010年に大阪市で分離されたEV71は23株すべてが上記のNUH0075/SIN/08株に97〜98 %の相同性を示したことから、非常に近縁な株であることが示唆された。今後、アジア地域を含めた最近のEV71分離株についての遺伝子情報を入手し、これらの分離株に関する遺伝子学的解析および比較を行う予定である。

大阪市立環境科学研究所
久保英幸 関口純一朗 入谷展弘 改田 厚 後藤 薫 長谷 篤
大阪市立総合医療センター
天羽清子 久保和毅 佐々木赳 塩見正司

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