方 法
コロモジラミからゲノムDNAを抽出し、Bartonella 属特異的プライマーにてPCRを行った。その後、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定し、B. quintana と同定した。また、インフォームドコンセントを行い、承諾を得て採血し、血液培養ボトルで35℃のCO2インキュベーターで7日間培養し、その後、一部を血液寒天培地で3週間培養した。培養ボトルから抽出したDNAを用いて、Bartonella 属特異的プライマーにてPCRを行った。その結果、ダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定し、B. quintana と同定した。B. quintana に対する抗体検査は、間接蛍光抗体法にて行った。
結 果
(1)東京の検出事例
東京において、1999年5月〜2005年6月までに路上生活者62名から採取したコロモジラミのうち、6名からB. quintana の遺伝子を検出した(9.7%)(表)2, 3) 。同様に、東京において、2001年5月〜2004年11月に路上生活者429名の血液からB. quintana の遺伝子を調べ、11名からB. quintana の遺伝子を検出した(2.6%)4) 。B. quintana に対する抗体価(IgG)は、一般人(200名)に比べ路上生活者(151名)の方が有意に高かった(p <0.001)4) 。また、路上生活歴の長い人ほど、有意にB. quintana に対する抗体価(IgG)が高かった(p <0.01)。しかし、現在までにB. quintana の分離には成功していない。一方、シラミ媒介性病原体としてBorrelia recurrentis が知られている。Borrelia 属に対するプライマーを用いてPCRを行ったが、1999年5月〜2003年10月の47名由来コロモジラミにおいて、すべて陰性であった。
(2)大阪の検出事例
大阪において、2009年5月〜2010年1月までに、ある医療機関を受診した路上生活者(42歳以上)10名から採取したコロモジラミのうち、6名由来のコロモジラミからB. quintana の遺伝子を検出した(60%)(表)。なお、42歳男性の血餅からB. quintana の遺伝子を検出した。しかし、B. quintana の分離には成功していない。
考 察
表に示すように、世界各国で採取したコロモジラミのB. quintana 遺伝子検出率は1.4%〜90%と、その地域の状況によって大きく異なる。一方、東京においてB. quintana の遺伝子の検出率が約10%で、塹壕熱が特殊な集団において蔓延している可能性が懸念される。大阪においては東京と比べて、異常に高いB. quintana 遺伝子の検出率が確認され、2地域における路上生活者の生活習慣の違いなど種々の要因を含めて、今後より詳細な調査が必要である。
参考文献
1)厚生労働省社会・援護局地域福祉課,ホームレスの実態に関する全国調査報告書の概要,2007
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/04/h0406-5.html
2) Sasaki T, et al ., J Med Entomol 39: 427-429, 2002
3)小林, IASR 22: 86-87, 2001
4) Seki N, et al ., Jpn J Infect Dis 59: 31-35, 2006
国立感染症研究所昆虫医科学部
佐々木年則 星野啓太 比嘉由紀子 伊澤晴彦 小林睦生 沢辺京子
国立感染症研究所細菌第一部 川端寛樹
国立感染症研究所細菌第二部
佐々木次雄 久保田眞由美 荒川宜親
東京検疫所 関 なおみ
池袋保健所 矢口 昇
大阪市社会医療センター 平山幸雄
大阪市保健所 吉田英樹