2010年7月28日に搬入された原因不明の心肺停止例の咽頭ぬぐい液1検体からエンテロウイルス68型(EV68)を検出したのでその概要を報告する。
患者は4歳10カ月男子。既往歴は特になし。患者は7月23日の夕方、突然に腹痛、嘔吐を発症し病院を受診。一次、二次救急病院で胃腸炎と診断され、薬を処方された後に帰宅。しかし症状は回復せず、7月24日早朝に布団の上で息をしていないところを発見。救急搬送されたが、蘇生処置の甲斐なく死亡が確認された。後日司法解剖の結果を問い合わせたところ、絞扼性イレウスを起こしていたとの報告があった。
この患者の咽頭ぬぐい液について、エンテロウイルスの遺伝子検査(EVP4、OL68-1プライマー)を実施した1) 。その結果、610bp付近に特異的増幅産物を認めた。ダイレクトシークエンス法によりVP4遺伝子を解読し、BLAST(http://blast.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)による相同性検索を行った結果、EV68(37-99 isolate, GenBank No. EF107098)に高い相同性(95%)を示したことから、EV68陽性と判定した。
しかし、基幹定点である聖隷浜松病院に搬送された時点で既に心肺停止状態であり、詳細が不明であったため、この死亡症例はウイルス感染が原因かどうかは判断ができなかった。
EV68は鼻かぜウイルスとして知られているライノウイルスの性質とエンテロウイルスの性質を併せ持つウイルスである。浜松市では2005〜2009年まで検出されたことはないが、今年はこの症例以外にも8月に搬入された検体1件からも検出されている。また、全国的にも例年より検出報告が多く見られる傾向にある。この傾向が今年だけの流行であるのかどうか、今後の発生動向を注視していきたい(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data60j.pdf)、(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data59j.pdf)。
参考文献
1) Ishiko, et al ., Intervirology 45: 136-141, 2002
浜松市保健環境研究所
日比野 竜 鈴木幸恵 紅野芳典 高野裕明 山下 密
浜松市保健所保健予防課 村井ふみ
聖隷浜松病院小児循環器科 寺西顕司