東日本大震災における感染症の発生および対策について
(Vol. 32 p. S1: 2011年別冊)

2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された地域の皆さま、その家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。

今回の災害の特徴は、被災地の多くの自治体において初期の公衆衛生システムそのものが崩壊するという、かつてない厳しい状況が生まれたことであった。水、食料、基本的な衛生の確保が困難な中で、各自治体はそれこそ不眠不休で避難者や住民の健康管理に尽力した。感染症対策はその中の一つである。

過去の経験からは、地震や津波に関連する感染症の問題について、発災直後は創傷や溺水に関連する感染症の問題が非常に大きいものの、食品媒介感染症の問題や呼吸器感染症の問題が大きな位置を占めるようになり、徐々に昆虫媒介性疾患が増えてくる傾向があることが知られていた。

実際には過去の災害と同様に、地震や津波そのものによる創傷や骨折等を負った方の中で破傷風患者が9人(死亡無し)報告され、津波で水を飲んだ方のレジオネラ症も複数認められた。関係者の努力もあって、各被災地では、急性呼吸器症候群、インフルエンザ様疾患、急性胃腸症候群の散発的な流行のみで、AH3亜型を主とするインフルエンザの集団発生や、ノロウイルスによる200人を超える感染性胃腸炎の発生が認められたのは一部避難所にとどまった。急性呼吸器症候群は、多様な原因(非特異的、あるいは細菌性など)を含むもので、高齢者を中心に発生が継続したが、いずれも散発的で、多くは肺炎球菌などの市中肺炎の原因となる病原体によるものであった。また、持ち込みが懸念されていた麻疹は幸いなことに認められず、昆虫媒介性疾患は問題にならなかった。

本ミニ特集では、被害規模が大きかった岩手県、宮城県、福島県の三県、および被災地を抱える茨城県における感染症発生に関する情報および対応について、それぞれの状況に応じて行われたその貴重なご経験を共有いただくものである。

なお、これらの感染症対策を効率よく進めるために、国立感染症研究所では、被災地における感染症リスクアセスメントを定期的に実施した。また、サーベイランス支援の目的で、避難所感染症サーベイランスシステムを構築してツールとして提供したが、それぞれの地域では状況が異なることもあり、独自に開発されたシステムあるいはそれらの複数の併用により地域の実情にあわせた感染症サーベイランスが行われた。

2011年10月11日
国立感染症研究所

別冊の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る