多くの住民は避難所生活を余儀なくされ、また、多くの医療機関等の機能が喪失したことから、感染症も含めた住民の健康状態把握が大きな課題となったが、交通および通信インフラが遮断された状況では、初動確認すら不可能であった。
そうした中、宮城県では最小限の交通インフラが仮復旧した段階で、東北大学と共同で「避難所における感染症リスク対応チーム」を設置し、感染症の発生およびまん延防止を目的とした避難所巡回指導を、3月23日〜6月2日までの間に延べ87カ所実施した。
各避難所では、トイレおよび調理場の衛生状況確認や、アルコール消毒剤の設置状況、住民が実際に避難生活を送るスペースなどを目視で確認し、問題があると思われた場合には、避難所運営の中心的役割を担う方などに直接指導し、衛生改善を推進した。
5月14日からは、国立感染症研究所感染症情報センター(感染研情報センター)が開発した「避難所感染症サーベイランスシステム」を活用したほか、防衛医科大学校が開発し、民間企業から貸与された避難所サーベイランスシステムがインストールされた携帯端末も活用することで、避難所単位で感染症発生状況を監視し、感染症発生時には保健所職員などが関係機関と連携し、迅速に対応した。
発生動向調査
東北地方太平洋沖地震による影響で、宮城県結核・感染症情報センターは一時その機能を停止したが、電力の復旧により回復し、比較的被害の少なかった内陸部の保健所を通じて届出があった全数報告や病原体検出状況を取りまとめ、3月29日より週報簡易版として「宮城県感染症発生動向調査情報」を作成して提供を開始した。特に、情報が途絶えた間に発病したとされるレジオネラ症と破傷風について、感染研情報センターと情報交換を行いながら、震災によりその発生リスクが高いことを含めて順次情報提供を行った。
最終的に破傷風7例、レジオネラ症2例の報告があり、その内容を表に示した。破傷風の感染経路は創傷で、避難途中や津波での負傷が原因であった。レジオネラ症は津波の水や泥を被ったことが原因と推定され、中には救助されたものの、湿った衣服を長時間着用したことも原因とされるなど、被災者の救助・ケア・支援の遅れにより感染リスクが高まる可能性が示された。また破傷風は、被災者はもちろんのこと、瓦礫の撤去作業にあたる救援・ボランティアも感染リスクが高いことから注意喚起を続けたところ、幸いその報告はなく、4月6日診断の被災者報告例(表、届出症例7)が最後となった。
表の届出症例3および4は、宮城県が感染地域であるものの、県外より届けられた症例で、これは県のサーベイランスシステムの長期的な障害を回避するためにとられた手段や県外の避難先で診断されたものであった。これらについては当情報センターでは届出を知る手段がなく、感染研情報センターを通じで得られた貴重な情報であった。
考 察
今回の災害では、県・保健所が、地域の専門家や外部の専門機関等と連携し迅速な対応を行い、また、被災地・避難所巡回等の地道な活動により、避難所の衛生面を改善するなどで、結果として現時点まで感染症が広範囲にまん延することはなかったと思われる。今回のような広域大災害発生時には、被災者や関係者への迅速かつ正確なサーベイランス情報の提供が必須であるが、このためには感染研情報センターを中心に、自治体の枠を超えた情報共有が必要であると考えられた。
宮城県保健福祉部疾病・感染症対策室 渥美 亨
宮城県保健環境センター微生物部(宮城県結核・感染症情報センター)
後藤郁男 佐藤由紀 沖村容子