震災後の宮城県における感染症発生状況とリスク評価
(Vol. 32 p. S4-S6: 2011年10月号)

1.東北大学病院における感染症の動向(搬送患者の解析)
東北大学病院では震災後1週間までは外傷症例が多く、2週目以降から感染症症例が多くなる傾向であった。3月31日までの震災に直接関連した疾患および震災後に原疾患の増悪による感染症症例125例のうち、呼吸器感染症が84例(67%)と最も多く、次いで創部感染症がみられ、震災時の受傷による2名の破傷風患者がみられた。呼吸器感染症では、高齢者の誤嚥性肺炎および慢性閉塞性肺疾患の二次感染が主な原因であり、尿中肺炎球菌抗原の陽性率は26%(31例中8例)、Legionella pneumophila 血清群1が分離されたレジオネラ肺炎の患者が1例認められた。

2.避難所における巡回指導と感染症リスクアセスメント
震災直後から、宮城県とともに巡回指導を行うとともに、行政担当者や巡回医療団の協力のもと、合計423カ所の避難所において3月末日までに感染症リスクアセスメントを行った(表1)。

避難者同士が1m以上距離を保つことができたのは全体の35%であり、28%が隔離場所の確保ができなかった。300名以上の大規模避難所では、大人数が密接に収容されるとともに、行政職員の対応が困難である傾向がみられた。避難所では換気は積極的に行われているものの、パーテーション等の間仕切りの設置は少なかった。

給水車による飲用水の確保は可能であるものの、62%に水道の未復旧がみられ、手洗い、清掃、食品衛生のための十分な水の確保は困難であった。上下水道の復旧に伴い衛生環境は大きく改善する傾向があった。

速乾性アルコール手指消毒薬等は90%以上の施設で充足していたものの、各種物品のより積極的な調達や衛生環境の確保は、自治の状況や経験者の有無に依存していた。

また、インフルエンザ等の発症事例等もあり、避難者、支援者に対する啓発が必要であった。

3.まとめ
今回の大震災にあたり、インフルエンザや感染性胃腸炎などによる散発事例、震災に関連したレジオネラ症や破傷風患者がみられたものの、避難者、支援者をはじめとする多くの方の多大なる尽力により、感染症対策を行うことが可能であった。

このような大規模災害にあたっては、日頃から地域における行政・医療機関・大学などの専門機関との連携が極めて重要であり、今後もより一層推進する必要があると考えられた。

東北感染症危機管理ネットワーク・東日本大震災感染症ホットライン
http://www.tohoku-icnet.ac/shinsai/hotline.html

東北大学大学院感染症診療地域連携講座 國島広之 具 芳明 山田充啓
東北大学大学院内科病態学講座感染制御・検査診断学分野
猪股真也 石橋令臣 金森 肇 遠藤史郎 青柳哲史 八田益充 徳田浩一 北川美穂 賀来満夫
東北大学大学院臨床微生物解析治療学 新井和明 矢野寿一 平潟洋一

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