医療機関におけるJANIS活用事例
(Vol. 32 p. 7-9: 2011年1月号)

医療機関における細菌検査室の重要な役割の一つとして、医師や看護師に対する院内感染対策に必要な薬剤耐性菌分離状況の提供がある。薬剤耐性菌分離状況のデータ提供を定期的かつ継続的に行う場合、どのような統計資料が客観的で有効なのかを考えるとともに、データ作成に要する負担を軽減することも必要である。

我々は厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門に参加するようになり、その還元情報を活用して感染対策に役立てている。データを解析した還元情報(月報)はデータ提出後48時間以内に閲覧可能となるので、サイトにアクセスし、提出データにエラーがなかったかどうか、また、注意や警告の対象になる菌の有無などの確認を行う。還元情報は、PDF形式の「検査部門月報」およびCSVファイルに加工された「薬剤耐性パターン」の2種類である。当院では細菌検査室のスタッフ全員が自由に閲覧できるよう、PDF形式の「検査部門月報」をダウンロードして細菌検査システムや共用コンピュータに保存し、さらにそれを印刷してファイリングをするなどにより、情報共有を図っている。また、電子カルテのメイン画面に「院内感染対策室」のサイトを設営しており、「検査部門月報」を全医療スタッフ向けに情報発信している。そのほか、Infection Control Team(ICT)定例会議資料としても、この検査部門月報を活用している。

検査部門月報の内容は、(1)主要菌の分離患者数(分離率)、(2)特定の耐性菌の分離患者数(分離率)、(3)主要菌・特定の耐性菌の月別分離患者数推移、(4)主要菌・特定の耐性菌の分離患者数(病棟別)、(5)主要菌・特定の耐性菌の分離患者数(検査材料別)である。これらについて、以下に具体例を示して説明する。

図1は、2010年10月月報(2)とその一部拡大したものである。(2)の中の、第三世代セファロスポリン耐性大腸菌であるが、自施設(2009年)の月別分離患者数と当月の分離患者数の比較では、当月を表す赤い点が箱ひげ図(本号5ページ図2参照)から外れており(図1↓矢印)、前年より多いことを示していた。(3)の推移グラフ(図2)でも2009年と比較して2010年は分離率が高いことが確認できた。そこで、(4)より特定の病棟で集積が見られないかどうかを確認したところ、4つの病棟で5名検出されており、そのうち1つの病棟に2名の患者が存在していた。(5)でどのような検査材料で分離されているのかを確認すると、尿検体で3名と最も多いことが確認できた。これらの情報から、薬剤耐性パターン(CSVファイル)を利用して分離患者を特定し、分離患者5名の背景調査(同一病棟患者の接触状況、病棟間で同一診療科かどうかなど)や、分離材料による感染経路の推定などの感染対策に利用することが可能である(図3)。

菌の分離率、月別推移、材料別・病棟別分離患者数などの統計データは、自施設のシステムでも作成は可能である。しかし、菌の分離率を他施設と比較をすることは、抽出条件を同一にする必要があるため、容易ではない。JANISは全医療機関との比較により、自施設の位置づけが客観的に確認でき、自施設の感染対策のレベルを認知する根拠の一つになったと考えている。例えば、2007年7月月報ではカルバペネム耐性緑膿菌が他施設と比較して多く分離されていることがわかり、スタッフの意識を高める効果となり、2008年は減少傾向がみられた(図4)。

細菌検査室では、JANISの解析情報をベースとすることによって詳細なデータを追加作成して提供することができ、労力の軽減および有効な情報提供が可能となった。それ以外にも、JANISでは提出データをデータベースに取り込む際、「特殊な耐性を示す菌」に該当するデータに対して注意や警告が出されるため、薬剤耐性菌のチェック機能が強化されるとともに、検査室の菌種誤同定や薬剤感受性誤判定を発見する効果もある。

このように、JANIS検査部門は、自施設が全国的に見て、標準的なのか、もしくは異常が起きているのかを客観的に比較することができるため、目に見えない細菌の院内拡散を防ぐ感染対策が効力を発揮しているかどうかを「見える化」する効果があり、有用である。

都立駒込病院臨床検査科 本間 操

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