本邦のSSIサーベイランスの現状
(Vol. 32 p. 12-13: 2011年1月号)

はじめに
手術部位感染(SSI)サーベイランスは単なる調査ではなく、SSIを減少させるための積極的な感染対策の活動である。それぞれの施設でのSSI発生状況を把握するとともに、全国的な集計データと比較すると、自施設の位置付けが認識でき、具体的な対策立案の助けとなる。厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業SSI部門の目的は全国集計を行うことにより、継続的にベンチマークデータを提供することである。

本邦におけるSSIサーベイランスの経緯
米国では1970年に疾病対策センター(CDC)の主導によりNational Nosocominal Infections Surveillance(NNIS)システムが作成されて、SSIサーベイランスが開始され、毎年データが収集、集計、公表されている。

本邦でも1990年代終わりにSSI防止に関する意識が高まるとともに、SSIサーベイランスの重要性が認識された。そこで日本環境感染学会の事業として、1999年2月より本邦初の多施設共同SSIサーベイランスが開始された。

このような経緯の中で、国としてもSSIサーベイランスの必要性を認識し、JANIS事業に、2002年7月より新たにSSI部門が加えられた。JANIS事業SSI部門も日本環境感染学会のSSIサーベイランスシステムに基づいて行われることとなった。

なお、日本環境感染学会のSSIサーベイランスはJNISシステムと呼ばれていたが、米国NNISシステムが2005年にNational Healthcare Safety Network(NHSN)システムに改変されたことも考慮して、JANIS事業との名前の紛らわしさを回避するため、2008年2月JNISシステムはJHAIS (Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance)システムへと改称された。

JANIS事業SSI部門の運用と経過
JANIS事業は法的義務のない、200床以上の病院の任意参加型事業として行われている。SSI部門は、
1)SSIサーベイランス対象手術手技は各施設がそれぞれの事情に応じて決める
2)選択した対象手術手技については全症例に関してSSIサーベイランスを行って、定められた項目のデータを収集する
3)収集データを専用入力ソフトに入力し、作成されたデータをJANISホームページ経由(http://www.nih-janis.jp/)で提出する
4)それぞれの施設の集計結果と全体の集計結果を上記ホームページ経由で受け取る
という形態で運用されている。

集計結果は6カ月ごとの半期報と1年分の年報としてフィードバックされる。また全国集計データは上記ホームページにて一般公開されている。

なお、JANIS事業SSI部門への提出データは入力支援ソフトNISDM-SSIにて作成することも可能である。

JANIS事業では2007年2〜3月に参加施設の新たな募集を行い、SSI部門には 300以上の施設が応募した。この施設数拡大後、多数例が収集されるようになり、SSI部門の集計結果は本邦のベンチマークとして確立することとなった。

JANIS事業SSI部門の集計結果
図1にJANIS事業SSI部門(2010年1〜6月)の各手術手技別SSI発生率を示す。消化器外科手術では腸内細菌による汚染のリスクが高く、SSI発生率が高値なので、その減少が課題である。一方、心臓血管外科や整形外科ではSSI発生率は低いが、いったん発生すると重篤化する危険が高いので、やはりその発生率を低下させることが重要である。

またSSI発生のリスクは症例ごとに異なるので、NNISリスクインデックスを用いてリスク調整を行うと、より詳細な比較が可能となる(図2)。

最後に
参加各施設が精度の高いSSIサーベイランスを行い、SSI発生率を正しく把握した上で、SSI発生を減少させることが最終的な目標となる。

NTT 東日本関東病院 針原 康 小西敏郎

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