JANIS新生児集中治療室(NICU)グループの活動について
(Vol. 32 p. 15-16: 2011年1月号)

1.NICUにおける院内感染症サーベイランスと感染症予防のためのガイドラインについて
NICUグループの活動の始まりは2001年からである。活動の目的は、(1)NICU感染症サーベイランスシステムを作り、全国NICUにおける感染症動向の把握を行う、(2)感染症サーベイランスデータを解析し、NICUにおける院内感染症予防対策を考える。この目的のために2000年の全国の主なNICU 90施設での極低出生体重児の感染症発症状況と施設情報(病床数、年間入院数、職員数などの項目)を調べるアンケート調査を行い、感染症モニタリングを行うための項目調査を実施した1) 。そのデータから、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症がNICUだけではなく、一般正常新生児にも大きな問題があることが判明したため、2005年からは、(3)一般正常新生児の院内感染症(特にMRSA感染症)について予防対策を考える、ことが追加された。さらに2006年からは、新生児看護学会からの要望により、NICU看護ケアの標準化も視点に入れた(4)「NICUにおける院内感染予防のためのガイドライン」を作成すること、が新たな課題となり、2010年現在まとめの最終段階にきており、原案をNICUグループのホームページ(http://www.nih.go.jp/niid/bac2/janis/nicu/index.html)に掲載している。

まず目的(1)、(2)のために全国のNICUにおける感染症の把握をするための感染症入力シートの作成を行った。しかし、2004年に完成したサーベイランス内容には、その後の感染症予防対策を行うための入力項目(入力支援ソフトはFileMaker Pro 5)として、患者基本情報70項目(必須入力項目11)、感染症・細菌情報20項目、予防対策(施設)情報55項目と多く含めたために、忙しいNICUの感染入力担当者の方々に大きな負荷がかかり、データ入力が進まず回収不能であった。そのため2007年にサーベイランス内容の大幅な改訂を行い、入力項目の患者基本情報を出生体重と発症日に限定し、診断項目も敗血症・肺炎・髄膜炎・腸炎・皮膚炎・その他と簡略化して、入力の手間を省く形とした。また入力支援ソフトもExcelを使用し、診断項目をマクロとして配備し、患者入力リスト内に出生体重と発症日と診断名、原因菌種名に限定し、自動的に厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)感染症報告用のクロス集計ファイルが作成できる形にできあがった(上記NICUグループホームページ上に感染症症例入力シートを公開しているので、是非ダウンロードして試用されたい)。

一方、NICU感染サーベイランスデータは、JANISのホームページ(http://www.nih-janis.jp/report/nicu.html)上で公開情報として閲覧することができる。2007年以降の公開情報を簡単に以下にまとめる。

1)モニタリング参加施設とNICU入院新生児患者数について
2007年のサーベイランス参加施設数は44、総入院数は5,678名[出生体重1,500g未満の極低出生体重児VLBW791名(同体重群出生数の約1/10、以下同様)、2008年に58施設、総入院数は10,823名(VLBW1,499名(同体重群出生数の約1/5)]、2009年には68施設、総入院数は14,073名[VLBW1,850名(同体重群出生数の約1/4)]と増加を続けている。

2)出生体重群別新生児感染症頻度について
感染症発症頻度の経年変化は、2007年全入院6.1%(出生体重1,000g未満33.1%、1,000〜1,499g 7.9%、1,500g以上4.1%、カッコ内以下同順)、2008年全入院5.0%(27.9%、7.0%、3.2%)、2009年全入院4.5%(25.2%、8.8%、2.8%)であった。やはり超低出生体重児が人工換気療法や中心静脈栄養などの濃厚な治療を受ける期間が長いために感染率が高いものの、2007年・2008年に比べて改善傾向にある。一方、1,000〜1,499gの児の感染症発症率は過去2年間7%台であったが、2009年は8.8%と増加している。

3)NICU院内感染症の原因菌別・感染症別発症頻度について
原因菌別にはMRSAが従来どおり高く(2007年22.5%、2008年30.4%、2009年19.7%、カッコ内以下同順)、次いでメチシリン感受性黄色ブドウ球菌MSSA(7.5%、9.8%、11.8%)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(4.9%、6.5%、10.4%)、緑膿菌(4.9%、4.1%、3.8%)、カンジダ(4.3%、3.3%、3.8%)、その他の菌(27.5%、27.2%、25.2%)で、菌不明(28.3%、18.7%、25.4%)であった。経年的には、MRSAが減少傾向にあり、MSSAとCNSが増加傾向にある。感染症別では肺炎(2007年24.9%、2008年18.7%、2009年25.7%)、敗血症(16.2%、18.5%、23.9%)、皮膚炎(10.4%、9.4%、13.7%)、腸炎(4.6%、4.1%、5.2%)、髄膜炎(2.9%、1.3%、2.2%)、その他(41.0%、48.0%、29.3%)であった。肺炎、敗血症、皮膚炎が増加している。

2.正常新生児におけるMRSA感染と産科混合病棟との関係について
当NICUグループの研究によると、以下のような問題点が明らかになった2) 。2003(平成15)年度の厚生労働省医療関係者養成確保対策費等補助金看護職員確保対策特別事業による調査(回答は533分娩施設)では、全国規模で一般産科病棟において産科単独で病棟運営ができているのは許可病床数501床以上の大病院の8.6%にすぎず、その他は婦人科・内科・小児科などとの混合病棟であった。混合病棟で看護管理者が危惧するのは、母子のケア不足と婦人科・内科の成人患者(ターミナルケアも含まれる)のもつMRSAや肺炎原因菌による新生児への院内感染であった。そこで、JANISの全入院患者部門に参加した27病院の感染症データから、生後28日以内の新生児期に限ってMRSA感染症データを抽出し、その病棟の背景とその要因を調べた。その結果、2004〜2005年の2年間で37例(菌血症4例、肺炎1例を含む)の新生児MRSA皮膚感染症はすべて混合病棟の8施設に観察されたが、産科単独病棟3施設では発症がなかった.この2年間で2例以上発症した5施設は、年間分娩数が多く(年間500件以上)、分娩数/看護職員数比が20以上であった。分娩後母子異室のある施設では、発症が短期に集中することがあり、院内感染を疑わせた。成人のMRSA保菌患者は常に新生児への感染源となりうるので、無菌的な新生児へのMRSA感染予防には接触感染予防策が必要となり、医療者は常に手袋を着用して新生児へ接しなければならない。混合病棟では分娩後早期からの母子皮膚接触と、母子同室・同床が行われる必要がある。さらに今後は病院機能評価の項目として、混合病棟の廃止と母子同室制の導入が考慮される必要があろう。

 参考文献
1)北島博之,他,未熟児新生児誌 17: 89-97, 2005
2)北島博之,環境感染誌 23:129-134, 2008
 (http://www.nih.go.jp/niid/bac2/janis/file/nicu001.pdf

大阪府立母子保健総合医療センター新生児科 北島博之

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