目的:コクサッキーA群ウイルス(CA)は手足口病、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎の起因ウイルスであり、地方衛生研究所における感染症発生動向調査の病原体検査で分離される主要なウイルスの一つである。以前は検出感度がよい乳のみマウス(以下、「マウス」と表記)による分離1) が行われていたが、近年培養細胞のみによるウイルス分離や遺伝子検査による検出が実施される傾向にある。しかし、感染症発生動向調査の病原体検索において、ウイルス分離は重要であることから、我々はマウスと、RD-18SおよびVero細胞を使用したCAの分離数を比較検討した。
方法:病原体の検索には、京都市感染症発生動向調査において14年間(1996〜2009年)で採取された患者7,724名の臨床検体8,993件を用いた。搬入された検体はすべて当所の常法に従い、マウスは0〜1日齢のddY系を、細胞はFL、RD-18SおよびVero細胞を使用してウイルス分離を実施した。血清型同定には、細胞で分離したものは中和反応を、マウスで分離したものには主として補体結合反応を、また、同定困難株には遺伝子検査を利用した2) 。
結果および考察
CAの血清型および分離株数は表1のとおり、10種類の血清型のCAが346名から347株分離された。
CAの検出率は、マウスが3.48%、RD-18S細胞が2.08%、Vero細胞が0.12%で、FL細胞での分離はなかった(表1および図1)。血清型別でみると、CA12型についてはマウスでしか分離されず、CA2、4、5、6、8、10および16型については、マウスによる分離率が高いことが示された。CA3型では、マウスとRD-18S細胞の間での分離率に差はなく、Vero細胞では1株であった。CA9型については、マウスで分離されるよりもRD-18S細胞での分離が優れていることが知られており3) 、本市でもRD-18Sで24株分離されたのに対し、マウスでの分離はなかった。
これらの結果から、CAの分離は9型を除いてマウスを使用するのが最も効率的であり、ウイルス流行時にはマウスの使用を考慮するべきことが示唆された。ウイルス分離は、ウイルス性状の解析等に必要な手法であり、CA流行の正確な把握のためにマウスによる分離は確実かつ有効であることが示された。
参考文献
1)国立予防衛生研究所学友会編、改訂二版、ウイルス実験学各論: 135
2)京都市衛生公害研究所年報、76、89(2010)
3)国立予防衛生研究所学友会編、改訂二版、ウイルス実験学各論: 142
京都市衛生環境研究所微生物部門
近野真由美 吉岡政純 杉江真理子 馬口敏和 中村 剛 木澤正人 梅垣康弘※ 安武 廣
木戸 毅 三宅健市 石川和弘
(※京都市山科保健センター)
国立感染症研究所感染症情報センター 藤本嗣人