インドからのD4型麻疹ウイルス輸入症例―札幌市
(Vol. 32 p. 44-45: 2011年2月号)

2010年12月、札幌市内の医療機関で麻疹と診断された患者からD4型麻疹ウイルスを検出したので報告する。

患者は30代女性で11月2日〜10日までインドを旅行していた。20日に発熱、翌21日には高熱を呈し、26日に市内の医療機関を受診した際には発熱、発疹および結膜充血が認められた。医療機関における血清検査(EIA法、11月26日採取)で、麻疹IgM 9.38、IgG 9.0を示した。患者のワクチン接種歴は無かった。

12月1日に採取された末梢血単核球および尿を用いてRT-nested PCR法による麻疹ウイルス遺伝子の検出を試みた結果、いずれの検体からも麻疹ウイルスのHおよびN遺伝子が検出された。N遺伝子の部分塩基配列は一致し、それによる系統樹解析によりD4型麻疹ウイルスと型別された(図1)。

GenBankに登録されている株との相同性検索では、塩基配列が100%一致する株は見出されなかったが、2007年にカナダで検出されたD4型のウイルス(MVi/Quebec.CAN/38.07、MVi/Quebec.CAN/33.07)および2010年にインドで検出されたD4型のウイルス(MVs/VALSAD.IND/16.10/3、MVi/VALSAD.IND/17.10/5、MVs/VALSAD.IND/17.10/6、MVs/VALSAD.IND/17.10/7)と99%(453bp/456bp)一致した。

なお、レファレンスセンターである北海道立衛生研究所にて実施しているウイルス分離では、継代2代の時点では麻疹ウイルスは分離されていないが、抗体検査(12月1日採取)では、麻疹IgM>25.87と強陽性を示した。

今回の麻疹患者はインドから帰国後に発症した輸入症例と考えられた。本症例からの周囲への二次感染は確認されていない。札幌市では、2010年5月にも中国からの旅行者から麻疹ウイルスが検出されており(IASR 31: 203, 2010)、国内における麻疹発生数のさらなる低下にともない、今後も輸入症例に対する警戒とともに、麻疹感染拡大防止のためにも検査室診断を中心とした確定診断および分子疫学調査が重要になると思われる。

札幌市衛生研究所
菊地正幸 村椿絵美 扇谷陽子 伊藤はるみ 高橋広夫 三觜 雄
北海道立衛生研究所
長野秀樹 駒込理佳 三好正浩 岡野素彦
NTT東日本札幌病院 篠原正英
札幌市保健所 布目博子 細海伸仁 高橋恭子 舘 睦子

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