フィリピンからのD9型輸入麻疹および関連症例の発生―愛知県
(Vol. 32 p. 45-46: 2011年2月号)

2010年11〜12月に愛知県内で麻疹と診断された患者のうち9例から、D9型麻疹ウイルス遺伝子を検出した。フィリピンからの輸入麻疹2例のうち1例と関連する7例の発生に際した、愛知県衛生研究所における麻疹ウイルス遺伝子検査結果の概要を報告する。

1)フィリピンからの帰国者2名。患者1:1歳男児。11月9日発熱。麻疹ワクチン(MCV)の接種歴なし。患者2〜9との関連は見出されていない。患者2:10歳女児。11月26日発熱。MCV接種歴は不明。2名ともフィリピンからの入国日と発症日に基づいて輸入麻疹と診断された。

2)患者2からの二次感染者2名。患者3:患者2の弟、6歳。12月4日に発熱。家族内での2次感染例。MCV接種歴は不明。患者4:患者2の同級生、11歳男児。12月6日に発熱。MCV接種歴なし。

3)患者3もしくは4からの三次感染と推定される者5名。患者5〜8:患者3、4と同じ小学校に通学。12月15日〜20日にかけて発症。4名中2名はMCV接種歴1回、他2名はMCV接種歴なし。患者9:27歳男性。患者4と医療機関外来で接触の機会あり。12月23日発症。MCV接種歴は不明。

患者1〜9より採取された血液、尿、咽頭ぬぐい液を検体として、RT-nested PCR法およびVero/hSLAMまたはB95a細胞を用いたウイルス分離による実験室診断を試みた。PCRの結果、すべての患者からいずれかの検体で麻疹ウイルスNおよびH遺伝子が増幅され、N遺伝子系統樹解析の結果、D9型麻疹ウイルスに分類された(図1)。患者2〜9由来N遺伝子の部分塩基配列(456bp)は同一であり、疫学リンクを裏付ける結果であった。一方、患者1は患者2〜9とは3塩基異なっていた。本県においては2010年7〜8月にもD9を検出しているが、愛知県1)および三重県2) からの報告と、今回報告例との相同性は99.3〜99.6%であった(図1)。遺伝子解析の結果は、患者1と2が相互に関連のないことと、患者2を発端者とする集団感染という疫学調査結果を強く支持するものであった。2011年1月14日現在、4名(患者3〜8と同じ小学校の小学生2名、および患者5〜8の家族1名とその濃厚接触者1名)の追加報告があり、臨床所見と疫学的リンクから確定された1名を除く3名から麻疹ウイルス遺伝子を検出している。計13名のうち、患者9以外は小学校と家族・同居者からの感染である。

今回報告した患者9名中7名はMCV接種歴なし、または不明、2名の小学生はMRワクチン3期対象者であった。わが国においてもMCV接種率の向上とともに麻疹は急減していると考えられるが、いったん発生するとMCV未接種者および1回接種者間での感染拡大が懸念される。今後は輸入関連など感染経路の特定に、ウイルス分子疫学の有用性が高まると思われる。

 文 献
1)IASR 31: 271-272, 2010
2)IASR 31: 327-328, 2010

愛知県衛生研究所
安井善宏 藤原範子 水谷絵美 安達啓一 伊藤 雅 小林慎一
山下照夫 藤浦 明 皆川洋子
岡崎市保健所
土屋啓三 櫛原和貴子 長野 友 片岡 泉 犬塚君雄

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