ロタウイルス感染症の臨床と期待されるワクチンの効果
(Vol. 32 p. 67-68: 2011年3月号)

ウイルス性消化管感染症、いわゆるウイルス性下痢症は、小児科の外来診療でよくみる疾患である。症状としては嘔吐、下痢がみられ、重症になると脱水、そして死に至ることもある。開発途上国では急性胃腸炎による乳幼児の死亡が依然として多い。多くの下痢症ウイルスが関与するが、なかでもロタウイルスによるものは臨床的重症度が高い。わが国では主に冬から初春にかけて、およそ6カ月〜2歳の乳幼児を中心に発症する。糞口感染により伝播する。診断は、下痢糞便中のロタウイルス粒子、またはロタウイルス抗原を検出する。迅速診断法としてラテックス凝集法や免疫クロマト法があり、日常診療に使用されている。

病初期に発熱と吐気、嘔吐がみられ、2日目以降、嘔吐回数は減り、血便のない下痢が始まる。潜伏期間は2〜4日。かつて冬季の白色便性下痢症と言われたように、白色の下痢便が特徴であったが、最近は約半数に認められる程度である。およそ3〜7日間程度で治癒する。

胃腸炎に伴う脱水が最も多い合併症であるが、それ以外の合併症として無熱性けいれん(けいれん群発)、脳症、肝機能障害、腎不全などを認めることがある(表1)1) 。中でも頻度が高く重篤になりやすいのが下痢による高度脱水である。特に基礎疾患を有する児は脱水を起こしやすく、ショックないしプレショックに陥る。短時間での頻回の下痢により高張性脱水を呈することが多い。傾眠傾向、多呼吸などの努力呼吸、頻脈、CRT(capillary refill time:毛細血管再充満時間)の延長を認める場合は重症が多い。“経口的に水分が取れているので、しばらく様子をみました”と言って母親が連れてきた乳児に高度の脱水を認めることがある。頻回の水様下痢で経口摂取できている量の何倍もの水分が失われているということである。ロタウイルス下痢症は、徐々に改善していく通常の水様性下痢症とは異なり、日を追って増悪していく。もし1日10回以上の下痢が2日以上続いていたら、脱水を起こしていないはずがなく、多くは経静脈的な補液が必要となる。意識の悪化がなく泣ける力があっても実際は脱水で身体機能が低下している場合もあり、保護者が思っている以上に悪い状態であることも多く、保護者への疾患啓発は必要である。

そのほか頻度的に多い合併症としては、痙攣(重積型・群発型)が挙げられる。15分以上の長い痙攣を起こす重積型は、40℃以上の高熱と嘔吐・下痢が急激に出現して昏睡状態となり、予後も悪い。一方の群発型は予後が良いため良性痙攣とされるが、短時間とはいえ日に数回発作を起こすことから入院となる場合もある。合併症として脳炎・脳症も稀にみられる。我々の症例を紹介する2) 。4歳女児、下痢と発熱が続いて4日目、立位困難、傾眠傾向となり受診、便中のロタウイルス迅速検査が陽性で、ロタウイルス胃腸炎に伴った脳症の疑いで入院。頭部MRI の拡散強調画像にて脳梁膨大部から側脳室後角周囲にかけて高信号を認めた(図1)。脳波で全般性の徐波も認めたが、第7病日には臨床症状、頭部MRI 所見も軽快し、MERS(mild encephalopathy with a reversible splenial lesion)と診断した。後日、便からA群ロタウイルスG9株がRT-PCR法により検出された。血液・髄液からは検出されなかった。

現在、世界的には2種類のロタウイルスワクチンが導入されている。単価ヒトロタウイルスワクチン(RV1)(Rotarix® )と5価組換え体(ヒトーウシ)ロタウイルスワクチン(RV5)(RotaTeq® )である。2004年に初めて発売され、その後、100カ国以上の地域で使用されており、有効性についても点滴や入院が必要な重症例を90%以上予防することが認められている3) 。一方、途上国においてはその効果が落ちることも報告されている4) 。Rotarix® の場合、最も頻度の高いG1P[8]をウイルス株とし、RotaTeq® ではヒトロタウイルスのG1、G2、G3、G4、P[8]の5種類の遺伝子を組み換えている。ワクチン普及によりワクチンに含まれていない株への流行株の交替が生じるのかなど、今後のフォローアップが必要である5) 。

 参考文献
1)河島尚志ほか,小児科診療 70: 2277-2281, 2007
2) Mori T, et al ., Pediatr Int (in press)
3) CDC, MMWR Early Release Vol.57/June 25, 2008
4) Armah GE, et al ., Lancet 376: 606-614, 2010
5) Zeller, et al ., Vaccine 28: 7507-7513, 2010

札幌医科大学小児科 堤 裕幸

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