1999年より開始されたロタウイルスのサーベイランスは、国立ロタウイルスレファレンスセンター(NRRC)を中心に、現在では国内15の共同研究施設が協力して行っている。本報告は、国内で定期予防接種としてロタウイルスワクチンが導入されて3年目にあたる2009年7月1日〜2010年6月30日までの間で、急性胃腸炎で入院した小児から検出されたロタウイルス株の遺伝子型についてである。
対象期間中NRRCに集められた検体778件中422件でロタウイルス陽性が確認された。その地域別内訳はVictoria(Vic)55件、Western Australia(WA)98件、New South Wales(NSW)35件、Queensland(Qld)78件、South Australia(SA)18件、Tasmania(Tas)1件、Northern Territory(NT)137件であった。
ロタウイルス陽性の小児の年齢分布は、0〜6カ月22%、7〜12カ月12%、13〜24カ月19%で、全体では5歳以下が71%を占めた。
ロタウイルス株の遺伝子型別結果は、G1P[8]が全体の49.3%(208件)を占め、次いでG2P[4] 21.1%(89件)、G3P[8] 6.6%(28件)、G9P[8] 1.2%(5件)の順に多かった。前シーズン(2008/09)最も多かったG2P[4]に代わり、2シーズンぶりにG1P[8]が優勢な型となった。これは2010年5〜6月にNTで起きた大規模なG1P[8]による胃腸炎のアウトブレイクが影響している。地域別にみるとG1P[8]はNTとQldで、G2P[4]はSAとWAで、G3P[8]はVicでそれぞれ優勢な型であった。
少数ながら他にはG1P[4]、G2P[8]、G9P[4]などの稀な遺伝子型も報告されており、ロタウイルスワクチン導入以降、国内ではG、P組み合わせの稀な遺伝子型の報告が増加している。
地域ごとに接種されているロタウイルスワクチンが異なるため、Rotarix®(NSW、Tas、NT)とRotaTeq®(Vic、Qld、SA、WA)の使用ワクチン別に遺伝子型を比較した。Rotarix®使用地域(149件)ではG1P[8] 79.2%、G2P[4] 7.4%であったのに対し、RotaTeq®使用地域(209件)はG1P[8]43%、G2P[4]37.3%、G3P[8]12%であった。
NTで起きたアウトブレイクは、使用するワクチンと同一型であったが、由来検体のワクチン接種歴の多くが不明であるため、ワクチンの防御能の問題か、ウイルスの自然変動なのか理由は分からない。しかし、ワクチンの選択圧により、同一型内で異なる系統への抗原変異が起きている一例であるのかもしれない。
(Australia CDI, 34, No.4, 427-434, 2010)