A型肝炎ウイルスによる食中毒事例―千葉市
(Vol. 32 p. 78-79: 2011年3月号)

2011(平成23)年1月に千葉市内の飲食店(寿司店)を原因施設とするA型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒事例が発生したのでその概要について報告する。

なお、本事例は、患者の共通食が当該寿司店によって提供された食事に限られていること、患者および調理従事者の便からHAVが検出されたこと、患者を診察した医師から食中毒患者等届出票が提出されたことから、寿司店を原因施設とする食中毒と断定し、2011年1月28日〜1月30日までの3日間の営業停止処分となった。

2月7日における感染症法に基づくA型肝炎発生届患者は36名であり、千葉市保健所は感染経路等の詳細な調査を現在も継続中である。

2011年1月21日、4件のA型肝炎発生届が市内医療機関から千葉市保健所にあり、同保健所は食品や井戸水等の同一感染源を介した集団発生を疑い調査を開始した。その後、複数の市内医療機関からA型肝炎発生届があり、1月28日における届出患者は合計20名となった(図1)。

調査の結果、患者20名は1月8日〜1月21日にかけて全身倦怠感、発熱、黄疸等の肝炎症状を呈していることが明らかとなった。また、これらの患者に共通の食事や利用施設等を特定するために、2010年11月下旬〜12月中旬[A型肝炎の潜伏期間(2〜7週間)を考慮]における喫食状況等の調査を実施したところ、患者は市内寿司店で調理、提供された食事を喫食していたことが明らかとなった。

保健所が採取した患者15名の糞便検体についてリアルタイムPCR法(平成21年12月1日付食安監発1201第2号「A型肝炎ウイルスの検出法について」)によるHAV遺伝子(5'UTR領域)の検出を行ったところ、患者15名中15名からHAV遺伝子が検出された(糞便1g当たりのRNAコピー数は3.0×105〜8.7×109)。同様に寿司店の従事者34名の糞便検体について遺伝子の検出を行ったところ、従事者34名中3名からHAV遺伝子が検出された(糞便1g当たりのRNAコピー数は5.3×104〜3.5×1011)。

また、患者家族への二次感染の有無を把握する目的で、協力が得られた家族27名の糞便検体について検査を行った結果、1名からHAV遺伝子が検出された(糞便1g当たりのRNAコピー数は1.1×108)。その後の調査により、この1名は寿司店を利用していることが判明した。

一方、寿司店における参考食品5検体、およびふきとり6検体についてもリアルタイムPCR法を実施したが、HAV遺伝子は検出されなかった。

なお、HAV遺伝子が検出された寿司店の従事者3名のうち2名は調理を担当し、うち1名(糞便1g当たりのRNAコピー数は1.4×107)は、2010年12月19日から発熱や全身倦怠感等の症状を呈したことから、12月22日に医療機関を受診し、同日に入院していた(後日A型肝炎と診断)。2011年1月7日に退院した後、1月16日から再び調理に従事していた。

リアルタイムPCR法によってHAV遺伝子が検出された患者15名、従事者3名、および患者家族1名の合計19検体について、VP1/2A領域のPCR産物(HAV+2799/HAV-3273プライマーを使用)の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定し、その一部約300bpについてclustalX(1.83)を用いた多重アライメントを行った。分子系統樹はNeighbor joining法(NJ法)により作成し、今回得られた遺伝子配列の解析を行った。

その結果、解析可能であった18検体(従事者1名を除く)はすべてgenotype IAに分類され、そのクラスターの1つであるIA-1に属し、2010年に日本で広域的に流行したIA-2やIIIAに属する株とは異なることが明らかとなった。また、2010年6月に千葉市内での散発事例から検出された1株とは異なる塩基配列を有していた(図2)。IA-1クラスターは、2006年に滋賀や新潟で小流行した株と類似しており、2001年から継続して検出されていることが報告されている(IASR 31: 287-289, 2010)。このことから、本事例で検出された株は、国内に常在していた株であると考えられた。また、その遺伝子配列は患者1検体(99.7%)を除く17検体が100%一致し、同一感染源に由来する株であることが強く示唆された。なお、DDBJにおけるBLAST検索ではHAJ04-3(accession no. AB258604)に最も高い相同性を示した。

A型肝炎の潜伏期間は長く、感染源や感染経路の特定が極めて困難である。従って、患者や調理従事者から検出されたHAVの分子疫学的解析結果が疫学調査等の方向性を決定するための重要な情報(ウイルス株間の関連性や感染地域の推定)となり、原因究明や感染拡大の防止に寄与するものと考えられた。

千葉市環境保健研究所医科学課
横井 一 田中俊光 小林圭子 岩撫晴子 野口喜信 三井良雄 岡本 明
千葉市保健所食品安全課、感染症対策課
若岡未記 西郡恵理子 渡部展彰 清田智子 加曽利東子 大山照雄 西村正樹 本橋 忠
小川さやか 小山大雅 長嶋真美 大野喜昭 大塚正毅 中台啓二 池上 宏
国立感染症研究所ウイルス第二部
石井孝司
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部
野田 衛

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