静岡市内の保育所において、2010年3月末〜5月下旬にかけて5件、および2011年1月に1件、計6件のA群ロタウイルス集団感染が発生したので、調査の体制と検査法、事例の概要およびそれらを比較した結果を報告する。
調査の体制と検査法
静岡市保健所では、保育所において集団嘔吐下痢症が発生した場合、その施設の規模や発生の広がりの状況等によって異なるが、概ね10人以上発症した場合を調査対象としている。発生施設への最初の調査でふきとり検体を採取し、調査時にはたいてい有症者は欠席しているため、保育所に検体採取を依頼して検体容器を預け、欠席者が戻り採取された検体がある程度の個数確保できた時点で、保健所が再び回収に行き、環境保健研究所で検査を行っている。今回もこの手順で実施した。
検体の処理は、便はPBSで希釈後、核酸抽出キットでRNA抽出を行い、ふきとり検体は超遠心法による濃縮後、便と同様にRNA抽出を行った。A群ロタウイルス検出は、国立感染症研究所の「ウイルス性下痢症検査マニュアル(第3版)」に記載のRT-PCR法で行っているが、泳動はマイクロチップ電気泳動装置で実施した。マニュアルに記載のsecondary PCRで産物のサイズがはっきりしない、または産物の濃度が薄い検体については、ダイレクトシークエンスを実施し、相同性検索により検出を確定した。
事例の概要
6事例の発生期間、患者数および検出されたA群ロタウイルスのG型別等は表のとおりであった。ふきとり検体の採取数は1事例あたり2〜3で、検出された1検体はおむつ交換台のふきとりであった。被験者の検体はすべて便で、事例4の3検体以外は発症者のもので、検出された検体はすべて発症者のものであった。
事例の比較と考察
園児の発症日や症状は、各保育所の職員が記録していた。そのデータをもとに発症日が不明な患者は除き、各事例の日ごとの患者発生数の推移を図1に示した。いずれの事例も患者が一度に大量発生するはっきりとしたピークが見られなかった。また患者の発生も特定の保育室に集中し、他の保育室に広がる事例はあまりなかったことから、感染力が弱いことがうかがわれた。そのほか、患者発生が途切れている事例があるが、この部分は休日等であり、一時的に園児数が減るためであると思われた。
各事例の嘔吐、下痢および発熱の症状の出現率を図2に示した。ただし、発熱のみの患者は、嘔吐下痢症と断定できないのでデータから除いた。3つの症状の出現率パターンは、大まかに事例1と6、事例2と3と5および事例4の3つに分けられ、違いがあった。しかし、このようなパターンは病原体の性質によるものか不明であった。
便は、緑色または白色を帯びるものが見られたが、ノロウイルスの場合あまりこのような便は見られないので、ロタウイルス感染を考慮に入れる特徴とも考えられた。しかし、検体採取が発症から時間がたっている事例ではほとんどこの傾向がなく、便にこのような特徴が見られない場合、PCRによる検出率や検出量が低い傾向にあり、確定にはシークエンスを行う必要があった。特に事例4は発生後大型連休があり、かなり時間が経過してからの検体採取となったため、発症者の検出率や検出量が低かったものと思われた。
静岡市環境保健研究所
井手 忍 柴原乃奈
静岡市保健所保健予防課予防担当
阿部勇治