現在のコレラ流行株について
(Vol. 32 p. 99: 2011年4月号)

血清群O1のVibrio cholerae は、ニワトリ赤血球凝集能、ポリミキシンBおよび生物型特異的ファージに対する感受性等、生物学的性状の違いから古典型とエルトール型の2つの生物型に分類される。また、コレラの典型的な臨床症状は、1つのAサブユニットと5つのBサブユニットからなるコレラ毒素により引き起こされる。Bサブユニットの遺伝子配列には、115番目と203番目の塩基に古典型菌とエルトール型菌の間でアミノ酸の違いを生じる1塩基多型が存在している。つまり、それぞれの生物型に特異的なコレラ毒素が産生される1) 。

7回にわたって記録されているコレラの世界的流行は、第6次の世界流行までV. cholerae O1古典型によるものであり、第7次世界流行からはV. cholerae O1エルトール型による。しかしながら、近年アジアのコレラ流行地域において分離されるほとんどすべてのV. cholerae O1が、生物型がエルトール型にもかかわらず、古典型コレラ毒素を産生するV. cholerae O1(V. cholerae O1エルトール変異型)であり、これが現在の流行株となっていると考えられる1-4) 。また、V. cholerae O1エルトール変異型は典型的なV. cholerae O1エルトール型と比較して、コレラ毒素の産生量が多いとの報告もある5) 。

現在のコレラ流行株の基盤情報を得るために、アジア地域における流行株の指標として1991〜2006年に日本国内で分離された輸入事例に由来するV. cholerae O1エルトール型について、コレラ毒素Bサブユニット遺伝子型を決定した6, 7) 。方法は、コレラ毒素遺伝子型の鑑別が可能なコレラ毒素Bサブユニット遺伝子の203番目における1塩基多型を利用したmismatch amplification mutation assayを用いた。その結果、典型的なV. cholerae O1エルトール型は1994年以前にのみ検出され、1995年以降すべての分離株がV. cholerae O1エルトール変異型であることが明らかとなった()。以上のことから、1990年代前半にV. cholerae O1エルトール型からV. cholerae O1エルトール変異型への流行株の遷移が起き、1990年代半ばからは、V. cholerae O1エルトール変異型がアジアのコレラ流行地域における流行株になっていると考えられる。

 参考文献
1) Nair GB, et al ., J Clin Microbiol 44: 4211-4213, 2006
2) Raychoudhuri A, et al ., Indian J Med Res 128: 695-698, 2008
3) Raychoudhuri A, et al ., Emerg Infect Dis 15: 131-132, 2009
4) Nguyen B, et al ., J Clin Microbiol 47: 1568-1571, 2009
5) Ghosh-Banerjee J, et al ., J Clin Microbiol 48: 4283-4286, 2010
6) Morita M, et al ., Microbiol Immunol 52: 314-317, 2008
7) Morita M, et al ., J Med Microbiol 59: 708-712, 2010

国立感染症研究所細菌第一部
森田昌知 泉谷秀昌 荒川英二 山本章治 大西 真

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る