2008(平成20)年8月に発生したVibrio cholerae O1による食中毒事例−仙台市
(Vol. 32 p. 99-100: 2011年4月号)

2008年8月、仙台市において、海外産の冷凍生ウニが原因食品と推定されるコレラ菌による食中毒事例が発生したので、その概要について報告する。

事件の概要
2008年8月7日、医療機関に腸炎ビブリオまたはコレラ菌に感染している疑いのある患者がいるとの連絡が保健所から入った。この患者は埼玉県S市在住の55歳の女性で、この女性と一緒に冷凍生ウニを食べた5人のうち4人が発症した。発症者4人の主な症状は、米のとぎ汁様の水様性下痢(5〜20回)、嘔吐、脱水、筋痙攣などであった。また、発症者の共通喫食品は冷凍生ウニのみであった。当該品の摂食は8月4日の夕食時で、初発患者の発症は8月6日午前6時頃であり、推定される平均潜伏時間は約47時間であった。聞き取り調査によると、この冷凍生ウニは、フィリピンで飲食店を経営している患者の夫が、日本へ帰国した際にフィリピンから持ち込んだものを、患者の義理の息子が仙台に持ってきたものであった。当所へは8月8〜9日にかけて、冷凍生ウニ残品2件、喫食者5人の糞便5件、医療機関で分離した発症者由来菌株3件の合計10検体が搬入された。

検査方法
食品は、25gをアルカリペプトン水 225mlに接種し30秒間ストマッキング後35℃で18時間培養した(一次増菌)。一次増菌液をTCBS寒天培地に塗抹するとともに、その表層の1mlをアルカリペプトン水10mlで二次増菌し、同様に分離培養を行った。

糞便はTCBS寒天培地に直接塗抹するとともに、アルカリペプトン水で増菌培養を行った。菌株はTCBS寒天培地に再塗抹し確認検査を行った。

コレラ菌の同定
TCBS寒天培地上で、直径約1〜2mmの比較的大きい粘稠性のある黄色の円形集落を疑わしい集落とし、TSI培地、LIM培地、VP培地、0〜10%食塩加ペプトン水および簡易同定キットに接種し、生化学的性状の確認を行った。

コレラ菌混合血清で直接スライド凝集テストを行うとともに、PCR法によるコレラ毒素(CT)遺伝子の確認およびRPLA(逆受身ラテックス法)によるCT産生性の検査を行った。

検査結果
食品からコレラ菌は検出されなかった。糞便は5検体中3検体からVibrio cholerae O1が検出された。血清型は小川型であり、CT遺伝子、CT産生性ともに陽性であった。菌株の精査においても同様に、V. cholerae O1:小川型、CT遺伝子、CT産生性ともに陽性であることが確認された。また、国立感染症研究所へ菌株を送付した結果、生物型はエルトール型と判明した。

主な生化学的性状を表1および表2に示した。

PFGEによる解析
生ウニが原因食品と疑われる本事件において、発症者4名それぞれの検体から1〜2株ずつ、計6株(lane No.1〜6)からゲノムDNAを抽出し、制限酵素Not Iで処理し、パルスフィールド・ゲル電気泳動を行った(図1)。No.1〜6は同一の泳動パターンを示したことから、本事件で分離されたV. cholerae は同一の菌株由来である可能性が高いと考えられた。

仙台市衛生研究所微生物課
成田美奈子 野中陽子 星 俊信 沼田 昇 勝見正道 小黒美舎子
仙台市食肉衛生検査所 新木 茂
仙台市食品監視センター 三浦謙一 小関奈那美
仙台市青葉区保健福祉センター 上西玉樹
仙台市太白区保健福祉センター 白寄りか 吉住美奈
仙台市科学館 玉川勝美

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